第19話

第十五話 自身
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2017/12/20 13:31
体育祭終わりの夕方。
C組の生徒はカラオケに集まった。

美都「……。」
笑心「な、なんなのよ、これ…!」
真昼「笑心、始まるよ。」

まなか「美都ちゃん、全部教えてほしい。」

美都「私は…。」
霧絵「どーいうことなわけ!?見捨てられたとか、そーいうの。」
美都「そのままの意味。私は、家族…と呼べるのかな?まぁ、その家族といろいろあって、今は絶縁状態なの。」
霧絵「絶縁……。」

美都「そう。最初は監視からだった。でも、次第にエスカレートして。
毎日言われた言葉も、つけられた傷も、最初は泣くことしか出来なかった。
でも、一週間、一か月、半年…。時間が経つにつれて、痛みも無くなった。
暴言も痛みも、感じなくなっていった。」

霧絵「そ、そんな……。」
霧絵は驚いて、息をのんだ。暴言、暴行じゃない。そんなひどい家庭環境を平然と話す美都に驚いた。
まるで、そんなひどい家庭環境が普通で、当たり前だとでも言うように。

小夜「美都ちゃん……。」

まなか「それで全部?」

美都「そうだけど……?」

まなか「聞いてない。本当にリレーでC組が3位になるようにしたの?」

美都「…そう、私が遅れたら3位になると思った。B組に2位になってもらうのが、条件だった。」

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美都「なんで私があんたに…!」


龍二「俺はお前の家の状況が良くないのを知っている。俺がお前を救ってやる。」

美都「嫌。私は今の状況にそこまで苦労してない。救ってもらう必要がない。」

そう言うと、龍二は笑った。得意げな表情をして。

龍二「ならヒーローになれ。お前が上に上がる、そうすれば状況が良くなるんじゃないか?」
美都「ヒーロー?私はそんなもの、なるつもりはないわ。」
龍二「リレーでC組を最下位にしろ。」
美都「は!?」

龍二「俺のクラスに来い。そうすれば、お前は、優等生になれるだろう。」

美都「できるわけないじゃない、大体、そんなこと…、」

龍二「できる。C組の奴らにはバラすなよ、お前が、お前自身のためだけにB組へ上がれ。
お前はB組に入る権利がある。俺は、C組の中には何人か、良い人材があると踏んでいる。
お前が1人目だ、さぁ!来い!」

美都「私、自身のため……。」

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まなか「そんなことが……。で、でも!美都ちゃんはの、残って……、」

美都「私は行くよ、まなか。私自身のために、いつまでも底辺には居られない。
そのために私は、わざと最下位になった。今さら後には引けない。」

まっすぐな目。今までで、見たことのない目をしていた。
『自分自身のために』美都は、C組を去る決心をしたのだろう。

小夜「み、美都ちゃん…!」

美都「小夜ちゃん、私はB組へ行くよ。
ごめんね、学級委員なのに。でも、これは、私が決めたことだから。
クラスは違うけど…、お互い、頑張ろうね、私は自分自身のために、みんなは、みんな自身のために。
みんな、 今までありがとう。まなか、次の学級委員は、まなかだよ。よろしくね。」

じゃあ、と言って、カラオケルームを去っていった。

樹「っ…、くそ!あいつ、美都…、」
笑心「樹……。」
真昼「仕方ないよ、美都さんが決めたことだから。」
笑心「でもっ、あんな、あんな!いきなりっ…!」

まなか「私たちも頑張ろう!美都ちゃんに負けないくらい!」
樹「…………あ、あぁ!もちろんだ!」
真昼「そうだね。」
霧絵「絶対負けないっ!」
笑心「こ、後悔させてやるんだからっ!」
小夜「わ、私も、頑張る!」

それは、1人、仲間が減ってしまった日。そして、新たなスタートライン。

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