暗い道を、ただひたすらに歩く。
すると、駅近くに繋がる大通りにでた。
スマホの電源はあらかじめ切っておいたため、時間がよく分からなかった。
時計台の方に向かい、時刻を確認する。
...22時かぁ...
友達と遊びに行っても、必ず8時までには帰ってたから、こんな遅くに外にいたのは初めてかもしれない。
...お母さん達、すごい心配してるかもなぁ...
でも、今日は家に帰りたくないの。
...また、色々考えちゃうと思うから。
しばらく時計台付近でぼーっとしていたら...
声をかけられた方に振り向くと、知らない男がいた。
.....でも、どこかで見たことあるような...。
サラサラな黒髪に、眼鏡をかけていて、顔立ちは修哉なみに整っていた。
「へへっ」と苦笑いして、その場を立ち去ろうとした時...
パシッ
手首を捕まれ、突然男の方に抱き寄せられた。
...これじゃまるで、ハグしているみたいに...
だけど、身体はピッタリくっついてない。
というより...くっつけてない?
...前にも、こんな事あったっけ。
暗い道1人で歩いてたら...ね。
学ばない人だなぁ...
あれだけ怖い思いしたのに、また同じ状況を作るなんて...
嫌な事に嫌な事が重なってすごく嫌な日になった。
手を振り払おうとしても、男の力が強くてびくともしない。
...もう、この人についていこうか。
何言ったって聞いてくれないんだから、話したって時間稼ぎにもならない。
...監禁とかされちゃったら、どうしよう。
私の人生はここで終わってしまうかもしれない。
こう思ってる時にも、グイグイどこかへ向かっていく男と私。
か弱い乙女か、私は。
何かある事にすぐ泣いて。
掴まれてない方の手で、拭っても拭っても溢れてでてくる涙。
私の異変に気づいた男は、申し訳なさそうな顔をした。
...ん? 何でここまでやっておいて、泣いたら申し訳なさそうな顔をするの?
さっきから感じていた違和感。
掴む手は振りほどけないくらい確かに強いけど、男の人の力はこんなもんじゃないはずだ。
他にも違和感があったと、
男との会話を振り返ってみる。
『っやめてください!』
「朱音ちゃん...俺と...」
...どうして、私の名前を知ってるの?
思い出す限りでは、私は男に名前を教えてない。
なら...どうして?
他にも違和感がなかったか調べる。
.....抱き寄せられた時、男はハグするようで、しようとしなかった。
今までの経験上…これは、いわゆるナンパというやつで、その中でもかなり手強い方。
その手強い方達は、平気で強く抱きしめてきたりした。
…思い出したくない、過去の1つでもある。
けれど、男のハグは、なんだかくっつかないように引き寄せるだけだった。
……この人は、ナンパ目的で私に近づいたわけじゃないのかもしれない。
「朱音ちゃん...」
なぜ名前を知っているのか...
すると、一つの答えが浮かんできた。
この男は...私の知り合いなのかもしれない、と。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!