例えばの話。
ずっと前から仲が良くて、心友だと思ってた人に特別な感情を抱いてしまったらどうしたらいいんだろう…
まぁ……例えばの話なんだけどさ……。
*
ある日、俺、寺島テオはある人を呼び出した。
指定した場所は、東京のとあるマンション。
平日の昼間だから人の気配はないだろうと思った。
指定した時間の少し前あいつは慌ててやってきた。
かわいいと思ってしまう俺は馬鹿なんだろうか。
「なぁあなた。俺、話があるんだ。」
俺はあなたに思いを伝えたかった。
普段は名字で呼んでいるのに、なぜか名前で呼びたくて、呼ばなきゃ本気だと伝わんないと思ってその気持ちが妙にくすぐったいし苦しくて。
突然生まれた感情をどうにか隠したかった。
あいつは名前で呼ばれた事に驚いているのかちょっと戸惑いながら声を発した。
「なに?、寺島くん。」
―――――――あいつは俺を名字で呼んだ……。
心がモヤモヤしたおれは眉を寄せ、不満げな表情をした。
「……。今の時間だけでもいいから名前でよんでくれないか?」
少しだけ意地悪してみたいという好奇心と名前で読んでほしいという願いが交差した。
「別にいいけど……テオくん?」
あいつはちょっと照れながら呼んでくれた。
なんなんだよこれ。名前を呼んで欲しいって言ったのは俺なのに…苦しいのは何故なんだろう。
「ねぇ、テオくん?大丈夫?」
俺はさっきからずっと下を向いている。
嬉しいのに苦しくてあいつに見せる顔がない…。
俺が呼んでほしいって頼んだのに………。
「あなたはさ……」
「ん?」
「俺の事どう思ってる?」
いまさらなんでそんなこと。
聞かなくてもあいつの気持ちなんて分かってるのに…
自分で自分を苦しめてるだけだって分かってるのに…
「どうって…幼馴染でしょ?私達。」
「……だよな。」
様子がおかしい。
両腕に力が入らない。立ってるのも辛くなってくる。
あいつは心配そうに俺を見つめてくる。
やめてくれ……………。
「俺もさ、この間までそう思ってたんだ。でも、俺のはちょっと違ったみたいでさ。」
思ってることを正直に伝えたかった。
俺は顔をあげあなたを見つめた
左右で形のそろった瞳が、少し潤んでいて。
それに吸い込まれそうになる。
こいつこんなに可愛かったんだな…
やぺぇなどんどん好きになっていく。
「テオ…「俺はお前が、あなたが好きだ。」
「……くん?」
あいつが名前をよんでくれたが名前は空気に溶けていった。
気がついたとき、俺はあなたを包んでいた。
「あなたの事が好きなんだ……」
俺はお前が好き。
俺はもうお前を友達だと思えない。
幼馴染とか、心友としてじゃなくてお前が好きなんだよ
自分でも怖いくらいお前が好きになってしまった。
あなたの悲しそうな目と体温は一晩中俺を苛み、眠ることができなかった。
END
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!