プリ小説

第36話

対立
「ここ近年は、良い器が有らず、困っていた」
オーディンの真実を聞き、呆気に取られる聖夜と真穂をよそにオーディンは続ける。
「故にそこのブラックサンタには感謝する」
アサヤに向けて、左側の頬だけで笑みを送る。
一礼するアサヤ。

「…オーディン」
聖夜は思い口を開いた。
「何だ」
「アンタ…地球の生命が好きなんだろ?善良な生命はそんなに少なくねぇさ…アンタがさっきまで起こしてきた裁きの中にも、きっと善良な奴は居たハズだ…」
「どうかな。我の聖剣の攻撃は、愚かな者にしか効かない。善良な者には、何ら被害は無い」
そう言い、オーディンは真穂の身体のまま左手で街を指差した。
指差された方に目を向ける。
鎌鼬に襲われ、切り裂かれている人々の中に、無傷な男性が居た。
「あの人間は善良だ。権力にも地位にも興味を示さず、恵まれない子供達の為に日々奮闘している」
男性は切り裂かれている人々が見えていないのか、平然と歩いている。
「善良な者に愚かな者の死に際を見せるのは申し訳ない、故に愚かな者を見えない様に幻を掛けてある」
オーディンは高らかに笑った。
これで異論は無いだろう、裁きを続けよう、と。
真穂の意識を押し退けようと、光を放つ。

が、真穂はそれに負けぬ様に自ら右手の指の皮を噛み千切った。
一筋、流血。
痛みを走らせ、真穂は必死に自我を保つ。
「…これだから、人間は」
オーディンは呆れた。
「自らを傷付けてまで、何故我を止める」
「…私も、確かに人間は愚かだと思うわ」
「ならば何故」
左右非対称の顔は、話し続ける。
「それで無慈悲に裁くのは、何か違う気がするの」
「何…?」
「裁くのでは無く、手を差し伸べる。ほら、見て…」
真穂は右手で街を指差した。
そこには、鎌鼬に切り裂かれながらも、少しながらも互いに支え合い、避難を誘導する人間達。
手当てをする者も居れば、大丈夫だと話し掛ける者。
それぞれ少しずつだが、助け合っている。
「人間は独り───でも、独り独りが助け合う事で、この世界は保たれている」
「…」
じっと、その様子を見詰めるオーディン。
真穂はそんなオーディンに語り掛ける。
「中には救いようも無い人も居るけど、まずは───」





「ふざけんなよ…」

アサヤのその言葉が、それを遮った。

シェア&お気に入りしよう!

この作品をお気に入りに追加して、更新通知を受け取ろう!

よろしくお願いします