時間はあっという間に過ぎて。
期限の12月25日。
「やっとできた!」
お墓まいりから帰ってきて作り始めたアルバムがようやく出来上がった。
「ルシフェルと出会ってから、もう2ヶ月も経つのか…。」
乃愛流がしみじみと今までを思い返していたところへ、出かけていたルシフェルが帰ってきた。
「ただいま。」
「おかえり。」
「今日はよく冷える。」
「じゃあ、暖かい格好していかなきゃね。」
残り1つのやりたいこと。
クリスマスを楽しむ。
今日がその日だ。
「言われた通りに買ってきたが、本当にこんなに食べるのか?」
持っていた袋の中からチキンやポテト、シャンパンなどを取り出して、テーブルに並べた。
「最後の晩餐、というかランチだもの。たくさん食べておきたいじゃない?グラス持ってくる。」
乃愛流は立ち上がって、食器棚へシャンパングラスを取りに行く。
「腹一杯で動けないなんてことにならないようにな。」
「大丈夫だって。」
テーブルにグラスを置いて、シャンパンを注ぐ。
「メリークリスマスにする?乾杯にする?」
「メリークリスマスは癪だな。」
乃愛流がくすっと笑う。
「わかった。それじゃあ、乾杯。」
「乾杯。」
手に持ったグラスをカチンと合わせた。
そのまま一口飲む。
「久しぶりのアルコールはおいしい!」
「おっさんみたいなことを言うな。」
「いいじゃん。本当のことだもん。」
乃愛流がそう言って笑っていると、ふと見たルシフェルの表情がいつもと違うように感じられた。
なんだか楽しそうにうっすら笑みを浮かべているように見える。
「…ルシフェル、今、楽しい?」
「…まあな。」
「よかった。」
乃愛流は嬉しそうに笑った。
食事を終えて、部屋を片付け、出かける支度をする。
「おい、まだか?」
早々に支度を済ませていたルシフェルが言う。
「まだ。外で待ってて。」
「早くしろよ。」
「うん。」
ルシフェルが部屋を出ていくのを確認した乃愛流は、引き出しからあるものを取り出して、テーブルの上に置いた。
コートを着て、かばんを持ち、部屋をぐるっと見渡す。
「…行ってきます。」
誰もいない部屋の中でそう言って、リビングを出た。
靴を履いて玄関の扉を開けると、すぐそこにルシフェルが待っていた。
「遅い。」
「ごめん。」
乃愛流は玄関の鍵をかけ、ルシフェルに渡した。
「はい。ルシフェルが持ってて。」
「なぜ?」
「帰ってくる時には、私はいないでしょ。」
「…そうだな。」
ルシフェルが鍵を受け取ると、2人は最寄駅に向かって歩き出した。
10分ほど電車に揺られて、2人は海が近い繁華街へ来た。
イルミネーションが点灯するまで、通り沿いの店を見てまわった。
5時。
あたりが暗くなり始めたとともに、イルミネーションも点き始めた。
「うわぁ…。きれい…!」
イルミネーションに照らされた大通りを2人で歩いた。
大通りを抜けて、海が見える遊歩道まで来ると、そこもまたイルミネーションで彩られていた。
「きれいだけど、ここは寒いね。」
「そうだな。」
冷たい海風が吹いて、乃愛流は身を震わせる。
その時、頬に冷たいものが触れた。
乃愛流が空を見上げると、真っ白な雪がはらはらと降ってきた。
「雪だ…!」
「…冷たいな。」
「趣のないこと言わないでよ。」
乃愛流はキッとルシフェルを睨む。
ルシフェルは乃愛流を見て微笑むと、目を閉じた。
目を開けた時、ルシフェルの髪が黒色からもとの銀色に変わった。
それを見て、乃愛流は悟った。
「…もう時間?」
「…ああ。」
「そっか…。」
2人の間に沈黙が流れる。
乃愛流がおもむろに口を開いた。
「ルシフェル。」
「…なんだ。」
「今まで、ありがとう。」
「…ああ。」
「作ったアルバム、ルシフェルがもらって。」
「…なぜ?」
「だって…覚えててくれるのは、ルシフェルだけでしょ?」
乃愛流が悲しそうに笑った。
ルシフェルはその笑顔を見て、胸がズキッと痛んだ。
とっさに胸元を押さえる。
「…そうだ。」
「…部屋に置いてあるから、ちゃんと帰ってね。」
「…ああ。」
再び沈黙が流れた。
「…最後に、写真撮ろう。」
乃愛流はそう言って、かばんからスマホを取り出すと、ルシフェルを引き寄せた。
「ほら、笑って。」
ルシフェルがスマホに顔を向けた時、スマホを持つ乃愛流の手が震えていることに気づいた。
隣を見ると、乃愛流が泣いていた。
乃愛流はルシフェルの視線に気づき、顔をうつむけ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「本当はね、もう少しこのまま生きていたい。…ルシフェルと過ごした時間がすごく楽しかったから。でも、契約したから。私の命をあげるって。…ずっとそばにいてくれたルシフェルを裏切ることはしない。だから、だいじょう…。」
「もういい。」
ルシフェルは乃愛流の手からスマホを取ると、スマホのカメラを乃愛流に向けた。
「笑え。」
「え?」
「その涙を流したブス顔をアルバムに残してもいいなら、そのままで構わない。」
「え、それは困る。」
「ほら、笑え。」
乃愛流はまた涙がこぼれてきたが、今までで一番いいと言えるような、満面の笑顔を見せた。
「ルシフェル。」
「今度はなんだ。」
「本当にありがとう。もういいよ。」
「…いいのか?」
「うん。どうぞ。」
ルシフェルが右手の人差し指で乃愛流の左胸に触れた。
すると、触れたところが光り輝いて、乃愛流が光に包まれる。
乃愛流の姿がだんだんと光に呑まれ、消えていく。
消える直前、乃愛流はルシフェルに優しい微笑みを見せた。
その表情がルシフェルの目に焼き付けられる。
乃愛流の姿が消えると、光はルシフェルの胸に吸い込まれた。
その光は春の日差しのように、あたたかかった。
ルシフェルは頬に何かが流れる感覚を感じて触れてみると、涙だった。
「なぜ、俺は泣いているんだ…?」
どれだけ拭っても、涙は止まらなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。