ドキ、って何よ。
目を閉じて涙を流す雄太の横で、一人焦る私。
頭を抱え込む。
ちょっと待って、どういうこと?
雄太を見たら…胸が痛くなった。
…え?
いや。
まさか。
いやいや、だからっ!
好きになっちゃいけないんだからっ!
てか、その感情どこから出てきたのよ!
私が好きなのは柊真で。
雄太の好きな人は元カノで。
私たちのあいだにやましいこともやましい気持ちも何もなくて。
ただの友達だって、さっき確認したばっかじゃん。
何ドキッとしてんの。
何好きって思ってんの。
ダメだよ。
「よしっ!」
ビクッ。
雄太がいきなり声を出すから、びっくりしちゃったじゃん。
反射的に雄太の方を見ると、袖で涙をゴシゴシと拭っていた。
そしてパンッと膝を叩き、立ち上がる。
「戻るかっ!」
しゃがんでる私に向かって言う。
「え…」
もう、いいの?
「なんだよ、そろそろ戻らねーと。」
「…気が済むまで泣けばいいのに。」
「もう十分泣いたよ。
大丈夫。」
ふっと優しい笑顔を見せる雄太に目をそらしたくなるのは、なんでだろ。
「目、腫れてるよ?」
「えっ、ウソ!?
オレそんなに泣いてた!?」
「…ウソ。」
「っ…なんだよ〜…」
雄太の反応が面白くて笑っちゃう。
「…じゃ、戻りますかっ。」
私もそう言って立ち上がる。
「おうっ。」
ホントはもーちょっとここにいたかったな、なんて。
それは雄太と2人きりだから?
…。
そろそろ素直になりなよ。
そう言ってる。
もう一人の私が、そう言ってる。
ダメだよ。
素直になったら…。
すべてが壊れちゃう。
「…ありがとな。」
「えっ…」
…今、ありがとって言った?
まさか、私が雄太から感謝されるとは思ってなかった。
「…な、何に対して…?」
「はぁ、あなたなぁ…
そこは“どーいたしまして”って言っときゃいいの!」
雄太が腕組みをして言う。
「ど、どーいたしまして…。」
だって、感謝されるようなことしてないし…。
「んじゃ、行こ。」
雄太が部屋の方に向かって歩き出す。
「うんっ…。」
雄太のあとに私も続いた。
「あ。」
部屋まであと数十センチという所で雄太が振り返る。
「?」
「あなた、トイレは?」
「あ。」
すっかり忘れてた。
てか、口実だし。
「…ふっ。」
私が固まっているのを見て、雄太が笑う。
「…分かってたよ、ホントはウソだろ?」
「えっ。」
ウソ。
なんで分かるの?
「心配して、見に来てくれたんだろ?」
「えっ。」
私の顔が熱くなっていく。
なに、全部バレバレ?
は、恥ずかしっ。
「サンキュ。」
「えっ…。」
雄太は一言だけ言って部屋に入った。
「…どういたしまして。」
廊下に残された私はさっき雄太に言われた通りの言葉をボソッと呟いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。