第5話

五杯目〜ストロベリーホットチョコ two
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2020/09/04 07:17
「ふうかー、飲まねーの?
冷めるぞ」

「え?あ、うん。あんまり熱いのも、
ほら、なんか嫌じゃん」

「ふーん…」

ご心配なく。みなさんには前にも
お話ししましたね。いや、
最近風邪気味なんですよ〜、妖精の
風邪ってなかなか大変なんです。

「で、どこ行くんだっけ?」

「え?三年生のプレゼント買うって
言ったでしょ!」

「そーだっけ?」

「ったく…」

そんな会話をしながら、おふたりは
商店街の奥へと入っていきます。

「えーっと?男バレの先輩は
ようすけ先輩としのん先輩と?
えーっとあとたくみ先輩か」

ふうかさんはぶつぶつと呟きながら
小さなお店へ入ってゆきます。
あとを追うように、慌ててゆうひさん
もお店へ入りました。
店内には、いろんなものが
ごっちゃりと置いてあります。
ぬいぐるみやマフラー、ヘッドフォンに…でっかい目玉のオブジェ??

「男子の先輩にはこれがいっかな〜」

「え、タオル?受験だし、
シャーペンとかでよくね?」

「んー…そお?」

結局男子の先輩方にはシャープペンシルと消しゴム、勉強が工夫できる
機能的なノートを選んだようです。

「女バレは〜みく先輩、あやな先輩、
らいか先輩とーあとももな先輩
だよな?」

「んー…あ、これとか!!」

「…?あー、シャーペン?
女子もそっち系?ふうかに
任せるわー」

「ちぇ、無責任め…」

ふうかさん一人で試行錯誤した
結果、女子の先輩には控えめな
チャームの付いたシャープペンシルと、香り付きの消しゴム、蛍光ペンを
選んだようです。

「…!ね、ねえゆうひ見てこれ!」

「ん…?」

ふうかさんが手に取ったのは、
華奢なチェーンに猫とハートを
かたどったモチーフがついた、
可愛らしいペンダントでした。

「可愛いな〜、つけてみたいな」

「お前そんなの似合わねえだろ、
お前に似合うのってあれだろ」

そう言って、ゆうひさんは
向こうのパーティグッズのヒゲメガネ
を指しました。
途端にふうかさんは黙り込み、
目つきを鋭くしてゆうひさんを
睨みつけました。

「なんだよそれ……さっきからわたしに押し付けてばっかだし、勝手なこと言いやがって!
ゆうひのばぁぁぁぁか!!!
もう知らね!!消えちゃえ!」

そう涙目で言うと、ふうかさんは
走ってお店から飛び出しました。

“わたし…消えちゃえ、って…
すっごく嫌なこと言っちゃった!”

怒りと後悔が、ふうかさんの中を
ぐるぐる渦巻いています。
ふうかさんは駅の前で立ち止まると、
しゃくりあげながら空を仰ぎました。
ちょうど夕焼けの時間で、
あっちには真っ赤になって
沈んでいくお日様がみえました。

“なんで、笑い飛ばせなかったんだ
ろう…なんで、もっと優しく
言えなかったんだろう、なんで、
なんで、なんで…!”

夕焼けを見つめながら、ふうかさん
のお顔は悲しいままでした。
これはなんとかしなくては!
そう思って、わたしは素直になれる
魔法をかけました。これを飲めば、
ゆうひさんに対する想いが強いほど、
素直に自分の気持ちを伝えることが
できるはずです。
ぐらり。
カップが揺れ動きました。
甘酸っぱいリップクリームの香りが
近づいてきます。こくん。
たしかにふうかさんはストロベリー
ホットチョコを一口飲んだようです。
途端に、ふうかさんのもやもやした
ものが晴れて、素直な気持ちだけが
のぞきました。


“次、ゆうひに会うときに…
気持ち全部言おう!”

「ふうかっ!」

「…ゆうひ」

「あの…さっきは」

「「ごめん!」」

「え?」

「あんなこと言っちゃって
ごめん。わたしずっと嫌なこと
言ってた。でも、わたしゆうひのこと
好きなんだ。好きって言いたくても
反対のことが出ちゃうの」

「ふうか…」

「わたしと、付き合ってください」

ゆうひさんは、しばらくポカンと
していましたが、ニカッと笑って

「あたりめーだろ!」

と言いました。

「ふうか、後ろ向いて」

「え?うん」

ふうかさんが後ろを向くと、
ゆうひさんはさっきのペンダントを
ふうかさんの首にかけました。

「これ…」

「うん、ごめんやっぱさっきの
取り消し。すっげー、似合ってる」

「もう!やっぱりばぁぁぁぁか!」

「えええ?!なんでだよ!」

ふふっ。ばぁぁぁぁかなんて
いっても、いちごみたいにお顔が
赤いことに気づいていないようですね。

夕焼けは、ペンダントのチェーン
に反射して甘酸っぱくきらきらと
光っていました。

さて、わたしはお店に戻ります。
また、恋するお客様が現れたら、

また、覗きに来てくださいね。

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