第28話

楓翔
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2017/12/13 14:42
「楓翔……楓翔!」

あたしは何度も呼びながら楓翔に抱きついた

「楓翔…会いたかった」

「うん。俺も」

あたし達はしばらくお互いを抱きしめていた

そして、少し離れて改めて楓翔の顔を見る

あの時とちっとも変わっていない

「あの手紙は楓翔が?」

「そう。俺だよ」

「何で?どうして直接会いにきてくれなかったの?」

「まあまあ、理由としては俺はもう死んでるからだよ」

「え…」

あたしは楓翔の身体にそっと触れた

しかし、とても死人のものとは思えなかった

「だって、今もここに…温もりだって…」

「これは仮の姿。…じゃあ、約束通り教えてあげるよ。真実ってやつを」
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俺は去年のクリスマス2週間前に交通事故で死んだんだ

けど、どうしても日向との約束を果たしたくて

なかなか成仏出来なかった

そしたら、神様がこう言ったんだ

“君は相手の女の子にも大切に想われている。こんなに互いを想いあえる奴に会うのは始めてだ。だから、君に1年の猶予をあげよう。その間、精一杯悔いのないように彼女を支えてあげなさい”

だから、俺はずっと空から見守ってたんだ

けど、日向は哀しみにうちひしがれたままだった

本当は少しだけ嬉しかった

それだけ俺の事を想ってくれてるんだって

でも、それじゃダメだと気づいた

思い出を大切にすることは悪いことじゃない

けど、俺のせいで日向が笑わなくなるのだけは嫌だった

だから、手紙を書いたんだ

未来の事が分かったのは神様に協力してもらってたから
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「どう?あの手紙たちの意味には気づけた?」

思い返せば楓翔が行くように指示した場所には

両親、雪乃、亮太…

いつもあたしの事を想ってくれる人たちがいた

「もしかして…」

「そう。日向は小さい頃のトラウマで実感しにくいだけなんだ。自分が愛されてるってことを」

「…っ……」

「自信持てって。お前には支えてくれる人が沢山いる。苦しくなったら、辛かったら周りに頼ればいいんだ。だから、日向!前に進め!」

そう言って楓翔は以前と変わらぬ笑顔を浮かべた

「……分かってる。前に進まなきゃってことは、頭では分かってるの」

ポロッ ポロッ

我慢の限界だった

あたしの目から沢山の涙がこぼれた

「けど、前に進んだら……そしたら、楓翔の事を忘れてしまいそうで怖いの。楓翔は初めて好きになった人だから忘れたくないの」

たまらずにあたしは泣き出した


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