あなたside
私は、中央塔の頂上にある林の中を、オウニの背を追いながら通って行く。
何となく思ってはいたが、どうやら上から飛び降り、尋問室に近い大窓へと向かう気のようだ。
林を抜けると、そこはまさに断崖絶壁。
目の前を遮る物は、何もない。
オウニは意地悪そうにそう言って、口元を三日月に緩める。
私たちは笑い合い、そして共に足元を見る。
その目に映った光景に、私は言葉を失った。
どうして、後で聞かせろなんて…。
そんな重要な話でもないんだけど…。
オウニ、この高さじゃ助けるとか言う現実味がないよ。
私たちふたりの、賭けを。
パシッ…
私がチャクロを引き上げ、大窓から尋問室の窓に飛び移ると、オウニは情念動でその窓の扉を破壊した。
私たちの影がふたつ、尋問室に長く伸びる。
シラアイさん…っ。
オウニは中へと入り、情念動で様々なものを浮かす。
オウニはそのまま歩いて行き、島の人間と思われる女の子の手をがっしりと掴んだ。
大窓へと足をかけ、私たちは頷き合う。
私は3人が飛び降りた後、それを追えるように、一度脚を屈ませた。
ビクッ!
オウニたちは、下へと消えて行く。
私は、シラアイさんの声に反応してしまった。
オウニたちはもう見えない。
長老会の人たちは、みんな優しく私に接してくれた。
私を、助けてくれた。
なのに、私は……。
私は、バッと振り返る。
ハクジさんは、私に大きな手を差し出す。
それがつらくて、悲しくて、嬉しくて…私は手をゆっくりとあげる。
グワンッ!!
私自身にも、わかった。
私の情念動で、この空気が歪んだのが。
アウラは、私の周りを囲むように連なり、二重の輪をかけた。
風を起こし、周りに誰も近づかせないようにした。
ハクジさんの手から赤い線が引かれた。
私のアウラで手を切ったようだ。
そう言って私を凝視したが、私は気に留めなかった。
私の口からは、今まで聞いたことがない声が出た。
長老会の人たちは、みんな後ずさりして、情念動を警戒している。
どうしようもなく悔しかった。
オウニの所為にして欲しくなかった。
裏切りなんて知るものか。
私の中は怒りでいっぱいだった。
みんなは下を向いて、顔を苦しそうに歪める。
その反応に、少し脳が冷静になった。
私は薄く笑ってこう言った。
私は後ろに一歩下がりながら窓から飛び降りた。
もう、怖くない。
風も、光も、雨も、砂も…みんな必要なんだ。
外は、幾千のもので複雑に出来ている。
ぶつかって砕けて、それを修復して、時には捨てて、この世は出来ている。
そうして、人も分かり合っていくんだ。
情念動で、ふわりと降り立つ。
ここは居住区にほど近い。
降りた場所にオウニはいない。
私はオウニに信頼されているんだ、と実感した。
私は駆け足でヒゲ広場に向かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。