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第16話

ベニヒの葬儀〜蒼の瞳
あなたside




あれから3ヶ月経った。

みんなと行動するようになって、すっかり外の道を覚えた。

体内モグラの人達と一緒にいるのは、とても楽しい。

時々規定に触れて、初めて会った時のように牢に入れられることもあるが、私はそういう時決まって寝ていることが多くて、まだ一度も牢には入ったことがない。

眠気に歯止めが効かないのだ。

体内にいた時は時間の感覚がほぼなかったので、何十時間も寝ていた時だってあった。

その癖が抜けないことと、少なからず運動するようになり体力的に疲れることが多くなったため、基地で一日中寝るなんてことも何度もあった。

やっと起きた時、ニビが目にクマを作って、「新手の病かと思った」と虚ろに言った時は、正直申し訳なかった。

起こしても起きないというのがまた厄介だ。

自分のことながら。


外で生活するようになったとは言え、やはりまだ住人の生活圏には足を運んでいない。

というよりは、人が少ない時間や場所を把握できるほど、人に会わないようにしている。

やっぱり怖いし。


だけど、大体の外の造りは分かるようになった。

今は専門棟の壁の合間の僅かな隙間を通って、ヒゲ広場の方へと歩いている。


こんなことをしていたら、いつか見つかってしまうだろうな。

実際、何度か「あの子だれ?」という声が聞こえたこともあるが、それは気にしなかった。

それよりも、「オウニみたいね」といった知らない女性の声が一番気になった。

一体どういうことなのか。

オウニは最初からモグラたちと一緒にいなかったのかな。



タイシャ
タイシャ
我々は鳥を追い、星を眺め、天を計り、儚い我々の行く末を占った
あなた

何だろう。

ヒゲ広場の方から、よく通る女性の声が聞こえた。

その様子を広場の上から伺う。

タイシャ
タイシャ
今あなたは鳥を導き、星に寄り添い、天を動かす

棺?

広場の中心に、花に囲まれた女性が指を組んで横たわっている。


タイシャ
タイシャ
あなたは尊い精霊となり、この砂地より世界を造るみなもととして、永遠にその魂を灯す


周りには沢山の人々が同じように指を組み、祈るような体勢をとっている。


タイシャ
タイシャ
泥の城船から我々はあなたを想い続ける

あれは、首長のタイシャ様だ。


なんとなくだけど、体内にいた頃に見たことがある。


無印で、印たちの象徴。

それが首長。


葬儀では、こんなことを言うのか。

タイシャ
タイシャ
我々を、導きたまえ
あなた

その一言に、どれだけの想いが込められているかなど、声色を聴けばすぐにわかる。

美しい言葉だ。




ゆっくりと棺が閉じられ、その上に一輪の花が供えられた。

人々が情念動を発動させて手を上げると、棺は浮かび上がり、砂の海へと落ちて行く。

進んで行くそれは、まるで旅人の船だ。

二度と帰ってくることのない、流浪の旅人。


棺の船を、ただ指を組み眺めている人々。

その光景に少し異様さを感じる。



もっと…んーなんていうの?

しんみりはしてるけど…なんか違うなぁ。

そう、ちょうどあんな風に…。

チャクロ
チャクロ
あ"ぁあ〜〜

おぉ…大泣きしてるよ。

これくらい泣いても普通だよね。

サミ
サミ
チャクロ、泣いちゃダメだっていったのにー!
女の子がチャクロと呼ばれた男の子を、バカとけなす。


『亡くなった人を想って泣く』…。

あなた

それでいいと思うけどなぁ…


静かに呟いたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。

















 
 






チャクロside


チャクロ
チャクロ
はぁ…
またやってしまった。



葬儀では泣いてはいけない決まりなのに…。

俺はまた、ベニヒのことを思い出して、泣いてしまった。



私はチャクロ。

14歳 男性。

泥クジラの記録係である。



親しい人が亡くなっていく…。

その度にこの、記録を残したい衝動は高まっていく。


どうして、こんなに書きたい衝動が止まないんだろう。

自分でも抑えが効かなくなるほど、たくさんの人々の営みや、美しい泥クジラのことをひとつ残らず書き記したい。



俺はスオウにベニヒの記録を届けた後、自室へと帰るために階段を登っていく。

巻き上がる風で、砂は縦横無尽に飛び回り、
太陽の光で、粒の表面は、時々砂の海から漂流してくるガラスのように光り輝く。

美しい…そんな風景は俺を飽きさせることがない。





しばし立ち止まって、俺は、砂まじりの空気をためらわず大きく吸う。
チャクロ
チャクロ
すぅーーー



…ここに生きている人たちは、みんなそうだ。


チャクロ
チャクロ
はぁー…



みんな、


感情を、押し殺したがる。
チャクロ
チャクロ
おかしいよ…そんなの…まるで…






まるで…



まるで、




殺しているようだ。










ベニヒも、死んでいったみんなも…



















自分の感情を殺すように、


人までも、殺していくみたいだ。




















あなた
まるで、殺すようだ、か…
チャクロ
チャクロ
え…

耳元で囁くように、俺の考えていたことを反復して言われる。


振り向かなきゃ…。

チャクロ
チャクロ
っ…

そう思うのに、身体が固まって動かない。

振り向かなきゃいけないのに、変な感情が芽生える。

それは、恐怖に近くて…でも、恐怖じゃない。

知らない声と、知らない匂い、それだけで俺は、興味よりも気味が悪い気持ちになる。


あなた
驚かせて、ごめんなさい。

…少しあなたが気になってさ
チャクロ
チャクロ
…お、俺が?
あなた
葬儀で泣いてた人だよね?
チャクロ
チャクロ

それはベニヒの葬儀のことだ。
チャクロ
チャクロ
君は、ベニヒの葬儀にいたの…?
あなた
…見てた、ってだけ
チャクロ
チャクロ
…君は、何者なの?
あなた

なぜか押し黙るその人に、少し不安になる。


…も、もしかして!



小さな子供だから、俺のこと分からないのかな?


いやいや、それならこんなに耳元で話せないし…。

チャクロ
チャクロ
あ、あの…
あなた
…背、向けられてるのって、なにか理由があるの?
チャクロ
チャクロ
え!!
あなた
こっち向きなよ
チャクロ
チャクロ
わ、わかった!

俺は慌てて後ろを振り返る。

するとそこには、知らない少女が、俺をじっと見ていた。


チャクロ
チャクロ
ぁ…


歳は15、6くらいのようだ。


黒髪の毛先がしたたかに舞い踊る。

透き通る程白い肌と、その首に掛かる異質な飾りに、言葉も出ない。

大きな瞳に緑をたたえ、光を浴びると青くなる。

むしろ『蒼』と呼んだ方が良い。



砂が舞うように、彼女自体も揺れて見える。

それは、この場に存在しているようで、ずっと遠くにいるような、不思議な感覚。

その感覚は心地良いけれど、彼女が存在することへの儚さに、なぜか、胸が何かにせき止められそうになる。




多く見過ぎてしまっていたのか、少し、訝しげな目に変わった女の子は、「なに?」と問う。
チャクロ
チャクロ
い、いやぁ!なにもないよ!
あなた
…そう、
チャクロ
チャクロ
…君はなんていう名前なの?
あなた
私は…あなた
チャクロ
チャクロ
あなた……うーん、ごめんね思い出せないや
あなた
…思い出すも何も、あなたと会ったのはこれが初めてでしょ?


不思議そうに問うあなたに、俺は戸惑う。


チャクロ
チャクロ
…え、そ、そうなのかな。
あなた
そう。なんで、そんなこと言うの?

なぜ…なぜなら、

泥クジラの住人は513人。

だから、みんなの顔は覚えていられる。


だから、一度会えば分かるはずなのに。

でも俺は、彼女のことを、知らない。




こんな小さな島でそんなことって、あるの?



あなた
私のこと、知らなくて当然なの
チャクロ
チャクロ
…それってどういう…
あなた
それより、聞きたいことがあるの

明らかに話をすり替えられてしまった。

でも、真剣な顔で問うあなたに、少し緊張して静かに尋ねる。

チャクロ
チャクロ
なに…?
あなた
なぜ、葬儀で泣いてはいけないの?

あぁ…そんなことか。

俺は安心して、その問いに笑って答える。

チャクロ
チャクロ
泥クジラでは、死者を送る時に涙を流すと、早く死者に呼ばれてしまうと言われているんだ
あなた
…うん
チャクロ
チャクロ
だから、葬儀で泣くことは禁止されているんだけど…俺はいつも泣いてしまうんだ
あなた
……だめなの?

……。


チャクロ
チャクロ
へっ?

いや、今俺いったよね…?

チャクロ
チャクロ
だから、死者に呼ばれてしまうから…
あなた
それはわかってる。でも、泣いてはいけない理由には余りにも子供染みてる
チャクロ
チャクロ
え…あ、そう、なのかな
変わった子だなぁ…笑

そんなこと考えもしなかった。
あなた
あなたたちには、当たり前のことなんだね
チャクロ
チャクロ
そうだね…俺たちはそう決められているから
あなた
…オウニたちが嫌がるわけだ
チャクロ
チャクロ
…え?オウニ?
あなた
!なんでもない!
チャクロ
チャクロ
あ!どこにいくの!
あなた
教えてくれてありがと!私のことは忘れてくれて構わないから!
チャクロ
チャクロ
えぇ?!
あなた
じゃ、さよなら!
チャクロ
チャクロ
ま、待ってよ!君は何者なの?!
俺がそう叫ぶと、あなたはどこかへ走り去る足を止めて、こちらを向く。



チャクロ
チャクロ
あ…

なんだろう。

とても…切ない。


『声』
『壊れていく、歪んでいく、崩れていく』
あなた
私の正体をききたいの?
『声』
『眩んでいく、霞んでいく、泣けてくる』
あなた
私は、私の正体は…
『声』
『苦しい、悲しい、寂しい、悔しい』
あなた
誰も知らない
『声』
『辛い、酷い、痛い』
あなた
私も知らない
『声』
『痛い、怖い、恐い』
あなた
みんな知らない
『声』
『来るな、来るなっ、来るなっ!』
あなた
私はあなた。それだけで十分な存在でしょう?
『声』
『違う、何が十分な存在だ。お前の存在はこの島に無い』

あなたの言葉に混ざって、『声』が聴こえている。




とても、苦しい。


蒼い目を見ると、その『声』は聴こえてくる。



あなたの綿毛のような声で。


あなた
どうしたの?
『声』
『これ以上、人と関わってはいけない。早くここから立ち去らなきゃ』
チャクロ
チャクロ
……

どうして、どうして…?

チャクロ
チャクロ
どうして…、君は何を抱えているの?
あなた
…なに…?
チャクロ
チャクロ
君が、『人と関わってはいけない理由』ってなんなの…?
あなた
…っ!な、んで…
チャクロ
チャクロ
君の声で、何を求めているの?

あなたは驚いた顔で後ずさる。

チャクロ
チャクロ
君の声が聞こえるんだ!何が壊れていくの?何が崩れていくの?何が苦しいの?悔しいの?辛いの?何が、痛いの?…何が、恐いの?
あなた
…なに、も…私は…っ
チャクロ
チャクロ
ねぇ!何が「来るな」なの?
あなた
いやああああああ!!!

急に耳を塞いで、泣き叫び出すあなた。

チャクロ
チャクロ
!どうしたの!?
あなた
来るなっ!!嫌だ!嫌だっ!!
チャクロ
チャクロ
ねぇ!!どうしたの?!

俺は走って彼女の元に行く。

チャクロ
チャクロ
大丈…
あなた
いやっ!さわら、ないでっ!!
チャクロ
チャクロ
で、でも!
あなた
あんた、何者?!なんで、私の過去を!
チャクロ
チャクロ
…過去っ?
あなた
っ…
チャクロ
チャクロ
やっぱり何かあるんだよね?!何が怖いの?なんでそんなに、
あなた
いやだっ!
チャクロ
チャクロ
ねぇ!!
あなた
殺さないでっ!!!
チャクロ
チャクロ
…え
あなた
はっ…、っ…!

あなたは素早く立ち上がって、下へと階段を下りようとする。

チャクロ
チャクロ
待って!



俺が止めた時には、彼女はどこにもいなかった。






あの、『声』。

そして、その言葉の意味。

俺には分からない。

ただ、殺さないで、と彼女が俺に…いや、誰かを俺に重ねて言ったその言葉に、ただならない過去を感じた。


チャクロ
チャクロ
あ…

彼女が先程までいた場所が、光る。


よく見ると、風で飛んできた花弁で、表面には丸い水滴がついたいた。

俺がそれを拾い上げる前に、風が吹いてその花弁を空中へと舞い上げる。


それを目で追いかけていると、砂の海に何かがあった。





あっ!


チャクロ
チャクロ
流れ島だ!!