オウニside
どこに消えた。
あれからそんなに時間は経ってない。
それに足音も、扉を出た時にはまだ響いていた。
あとは監獄しか、隠れる場所など無いだろう。
だがその女は、俺から隠れる動機がない。
だから、俺は監獄には戻らなかった。
俺は、ひたすらに同じような道を、縫うように歩いていく。
ふと、我に返ったように、思う。
何故俺は、こんなに必死になって探しているんだ。
別に、俺の仲間に危害を加えた相手でもない。
むしろ、『開けてくれた』存在だ。
なのに、こんなにつけ回して、顔さえも見えなかった女を探し続けている。
俺は、どうなっちまったんだ。
『ガタッバタンッ』
今、確かに女の悲鳴と、何かが倒れる音がした。
後ろから聞こえたその音。
振り向くが、なにもない。
一本道で、壁しかない。
だけど、今の声の通り方…。
少しくぐもっていて…
まるで部屋の中から聞こえたような…。
しかも、あの声は
透き通った声だった。
どこかに部屋がある。
そう確信した俺は、後ろを向いて、壁に手をつけた。
ひんやりした泥が、触れた場所から、
俺の体温を奪っていく。
それは、命を吸い取るように。
じんわりと…
ゆっくりと…。
そのまま、手を横にスライドさせていく。
ザーーッ
さらっとしていて硬いようで、意外に脆い。
泥クジラの脆さを、改めて感じる。
崩れてしまえば、俺たち諸共、砂海の藻屑だ。
そんなのはごめんだ。
ザーーサーッ
泥の手触りが変わった。
ここだけ、泥というより、砂の混じったような手触りだ。
ここが部屋か…?
俺はその箇所を、勢いよく叩いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。