オウニside
バンッ!!
叩いた物は、その部屋に続く扉だった。
勢いよくそれが開いて、中をあらわにする。
倒れた椅子。
転んだのか、床に座り込んだ女が、目の前にいた。
目を見開いて、俺を見つめている。
その瞳の青緑に、吸い込まれそうになった。
その瞳をじっと見つめていると。
瞳の色が、深い色へと変わった。
その瞳が、俺を睨みつけて来る。
間違いない。
この声は、
そういうと、俺の声も聞かず、
そう叫んだ。
何かを部屋の物を見られたくなくてそう言っているのではなく、人との関わりを拒んでいるような言い方だ。
無難な言い方をするが、
と、だいぶ取り乱しているようだ。
そう言って、一歩踏み出すと、女の肩がビクッと跳ねて、情念動で棒を取り、それを俺に突き出す。
しかし、手が小さく震えている。
とにかく、敵意がないことを証明しなければ。
俺は出来るだけ、言葉を選んで言った。
だが、女には響かなかったようだ。
その時、一瞬よろけたのを見逃さなかった。
少し追い詰めてみる。
俺は、情念動を発動する。
いつもより強く、アウラを身体中に広げる。
その言葉の後、女の身体が崩れ落ちた。
とっさに手を伸ばして身体を引き寄せ、胸で受け止める。
返事はない。
代わりに小さな寝息だけが、部屋の中に響いている。
俺は、女を支えながらしゃがむ。
とりあえず女を座らせて、自分の腕の中に抱えた。
会うことが叶った以上、こいつのことを調べ放題ではある。
だが、このまま気絶したままでは放っておくこともできない。
…ならば、基地に連れて行くか。
こいつが倒れたことを上手く利用して、『監獄を出た理由』にすれば、辻褄を合わせることができるだろう。
俺は、女を両手で抱き上げる。
あまりの軽さに、拍子抜けした。
何にも食べていないのか…?
この軽さと言い、情念動で倒れたことと言い、日頃から外に出ていないことは確かだろう。
俺は、女と共に部屋を出た。
ちらっと女の顔を見ると、スヤスヤと子供のような寝顔を見せている。
ここまで美形なら、男衆が騒いでもおかしくないだろう。
ここ、泥クジラでは珍しい漆黒の黒髪は艶やかで、肌は白く、柔らかい。
胸も、ある。
……。
羞恥で女から、顔を背ける。
本当におかしくなったのか?
松明の横を通った時、キラッと女の首元が光った。
見ると、三角形の飾りがついた鉄の首飾りだった。
文字が二種類刻まれていて、一つは『あなた』
もう一つは俺の知らない文字だった。
俺の腕の中で眠っている『あなた』が、もぞもぞと動き、俺の服を掴んで、顔をうずめた。
それに、『愛らしい』なんて感情を抱いたことは、俺だけの秘密。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。