あなたside
オウニが立ち上がった時は、ちょうど緊張のピークを過ぎてほっとしていた時だった。
そんな時に急に歩き出したオウニが、出口を超えて、今にも階段を下りていきそうだったので、
「え、いや、まってよ」と言いたげな顔をしていたかもしれない。
こんな初対面の人たちにオウニなしで囲まれたら、私、とてもじゃないけど…うん。
そういうことだ。
オウニは一度こちらを振り返ったみたいだけど、私も座っていたのでキチャちゃんで見えなかった。
『オウニ、行くな、行くなよぉ!』
と念を送ってみるが、何故かニビさんが立ち上がってコクリと頷くと、その期待を裏切って小走りで階段の方へと消えてしまった。
『あぁぁ〜…』
どうしろというんだ。
私は知らないぞ。
私がどうなっても知らないぞ。
ちょっと悲しそうに見えるのは私だけなのかな。
キチャちゃんがみんなを引っ張って、出口を行く。
ビクッ!
ニビさんが私の肩に手を置く。
やばいやばい。
情念動 発動しかけたじゃないか。
ニビさんが奥の部屋にと言うので立ち上がる。
ふらっ…
ニビさんが私の身体を支えるために両腕を掴む。
その瞬間、ぞわりとアウラが現れる。
その手から逃れようと身体をひねる。
そう言っても、ニビさんは私を離そうとしない。
私の意識とは無関係に、部屋の中にアウラが無数に浮かんで散らばる。
私にも、自身の情念動がどんな暴走をするか分からない。
アウラは私とニビさんの周りにたくさん浮かび上がる。
止まれ。
収まれ。
そう念じるが、状況は全く変わらない。
私がそう言うと、ニビさんは腕に込める力を強める。
アウラの一つがニビさんの腕に張り付く。
するとニビさんの顔が辛そうな表情に変わる。
足に痛みが走り、声が震えた。
見るとアウラが張り付いている。
これが痛みの原因なの?
それを皮切りに周りに浮かんでいた たくさんのアウラが飛んでくる。
身体中に張り付き、痛みが全身を覆う。
ニビさんを見ると、私よりもアウラは受けていないけど、苦痛で顔を歪めている。
アウラはどちらかといえば私を攻撃したがるみたいで、少し安心した。
だが、ニビさんだって少なからず影響を受けている。
一刻も早く逃げてもらわなければ。
ニビさんが私を抱きしめる。
うるさいって言われても…。
これじゃニビさんがアウラ受けっぱなしじゃないっ。
私が半ば、怒るようにニビさんの身体を引き剥がそうとすると。
そう言った。
自然と涙が、溢れる。
今まで飛び交っていたアウラがぴたりとやむ。
幸い二人の身体には何の傷も残っておらず、同時に痛みも消え、身体から力が抜ける。
ニビは私を抱え、どうにか立たせてくれた。
そう言って、私の頭をクシャと撫でる。
胸に目線を向けながら悪びれもせず、そんなことを言うニビに、私は涙も止まり赤くなる。
ニビは私の首に手を伸ばし、ネックレスに触れる。
それを指で もてあそぶ。
ニビがネックレスから手を離すと、
シャラっと音を立ててあるべき位置へ戻った。
そんな一連の動作に、私の心臓が大きく鳴る。
ニビの人柄が、なんとなくわかった気がする。
オウニだけが知ってる私の話をするのも、ニビならいいのかもしれない。
暴走はしたが、ニビのおかげでなんとか気絶しなくてもよかった。
ニビには、人を安心させる不思議な力があるようだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。