第5話

恋人
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2017/12/02 14:54
「ごめん、栞にはなかなか言い出せなくて・・・」
「・・・」
私は知らなかった。
陽がもう、この世にいないって事を・・・。
「今年の11月30日だよ」
「・・・何で教えてくれなかったの?」
「・・・言い出せなかった。1番傷つくのは栞だって分かってたから」
「・・・」
「それに・・・栞には言わないでほしいって桃瀬が」
「陽が?」
「昨日、桃瀬のお母さんから連絡来て」

「ごめんね、呼び出して。これなんだけどね」
お母さんが手渡してきたのは1通の手紙だった。
「あの子が最後に書いたものだと思うから」

黒瀬は上着のポケットから手紙を差し出してきた。
「?」
「桃瀬が最後に書いた手紙」
「・・・黒瀬にじゃないの?」
「自分で読んでみろ」
私は手紙を受け取り読んでみた。

「黒瀬くん、栞へ
この手紙を読んでいるということは、もう私は居ないのですね。
2人と遊んだあの頃がとても懐かしく思うわ。
私は、病室から出られなくて2人がとても羨ましかった。
でも、黒瀬くんに色んなところへ連れ出してもらったからいい思い出が出来たの。ありがとう

栞には、嫌な思いをさせてしまってごめんなさいと謝りたいわ
黒瀬くんを好きだって分かっていたのに・・・
でも、人生1度きりって考えたらたまにはワガママもいいかな?って・・・反面、ダメだって分かってる所もあったのに
黒瀬くんの好きな人も知ってて・・・
私は、2人を大の親友だと思っていたのに傷つけて・・・本当にごめんなさい

黒瀬くんも栞も素直に気持ちを言わないから、そのキッカケになれればって思ったことも事実よ。
栞、黒瀬くんの事が好きなんだよね?だから、黒瀬くんが早く帰ることにモヤモヤして私のところに来てたんだよね。
黒瀬くん、私に嫌な思いをさせないようにって頑張ってくれてありがとう
私の生きていた時間は、2人が居たから楽しく過ごせた。
2人は1番の宝物だよ。

黒瀬くん、私は栞を1人にさせてしまったから今度は栞を大切にしてあげて。
私は2人を見守り続けるから」

「陽」
「桃瀬には、全てお見通しだったって事だな」
「・・・」
「・・・俺は、桃瀬の頼み事を聞くつもりなんだよ」
「え?」
黒瀬は、私を見ていた。
「俺は一生、栞を大切にする」
「・・・」
「・・・何か言うことないのか?」
黒瀬は固まる私を見て、クスッと笑った。
「私は、黒瀬が好き・・・だから1人にしたら許さないから」
「ワガママ」
黒瀬と私は、お互いの言葉に笑ってしまった。
「雪じゃない?」
周りの恋人達が空を見上げて喜んだ。
「本当だ」
「陽かもね?」

私達は、陽が喜んでくれているんだと感じた。

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