家からちょっと歩いて本屋に着いた。
確か私が書いた話だと、本屋で届かない本を渡留が取ってくれて、ドキドキした雰囲気のところで、本が落ちるんだよね…。本当にそんなことが?でも、もしここが本当に私の書いた小説の世界ならば・・・。
「何か買うの?」
私は恐る恐る聞いた。答えは多分、レシピ本。スイーツの。
「うん。今年は家でケーキ作るって約束してたから実星のことだから、レシピ本いるかなって。」
渡留は絶対からかってる。少し笑いながらこっちを向く渡留がキラキラして見えたけど、これはきっと今日がクリスマスのせいだ。
「分かった。」
私はぶっきらぼうにそう言った。それから私たちは本屋でケーキに関するレシピ本を探した。そのうち、美味しそうな表紙のレシピ本に気がついた私は手を伸ばした。うーん、届かない・・・。もっと背伸びしようと一度足を戻すと、
「何やってんだよ。ほら。」
ひょいっと、後ろから手を伸ばし本を取ってくれたのは渡留だった。
「あ、ありがとう…。」
嬉しかったから、素直にこの言葉が口から出た。
「実星は、いつも無理してできないことしようとするよな。」
「いつもって、いつもじゃないし!無理してないし!」
そのあと数秒私たちの間に沈黙が流れた。
「あれ?いつもって…いつも見て?」
「好きだから…しょうが…ない…だろ?」
ボソッと私の口から出たその言葉に、渡留は顔を赤らめた。それにつられてか、私も顔が熱くなるのを感じた。沈黙の終わりは、本棚の本が落ちた音だった。
「あ。」
「え。」
二人で驚いて、その顔に思わず笑みがこぼれた。
「じゃあこれ買って帰ろうか。」
「うん!」
私はこれ以上に無いような幸せを感じていた。今まで渡留と一緒にいたけど、恋愛として、彼氏として見たことは無かった。こんな日常が幸せだなんて、初めて気づいた。これが恋なのかな?これが好きってことなのかな?まだそれについての答えは、出ていない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。