……思い、出せない。
ふと 目を覚ますと何も覚えていなかった。
昨日は何をしただろうか?
昨日は誰と話しただろうか?
昨日は誰かと逢っただろうか。
脱ぎ捨てたような 私服が放られていた。
誰かと指切りを交わしたような 感触が残っていた。
友人と通話した履歴を携帯が 覚えていた。
示されている現状が 昨日までの結果(きおく)。
表示された記録(データ)が 昨日までの結果(きおく)。
そうなのだと それだけだと受け入れてしまえたらいいのに
無反応な感情が 騙されてるんじゃない?というようで。
黙り込んだままの感情が こんなの知らないよと目をそらすようで。
不確かすぎて 怯えてしまう。
曖昧なものを嫌う僕らなのに
曖昧な、それでも、確かにあったものを失くすことが 何よりも怖い…
………怖いんだ。
曖昧なものを嫌いながらも僕らは結局
自ら不確かなものを信じてしまいたくなるらしい
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!