『ぺりっ』
朝起きると耳のそばでおかしな音がした。
眠たい目を擦り、状況を確認する。
掛け布団に白っぽい何かが複数落ちていた。
意外と柔らかく薄いそれをひとつ拾い上げると、
私は驚愕した。
皮膚だ。
皮がめくれるだけにしては量が多すぎる。
すぐさま鏡を見に行く。
顔の端、耳の下あたりの皮膚が剥がれている。
右側は頬まで剥がれていて、皮膚の剥がれた場所は
靄のようなものが覗き、おかしな輪郭
になってしまっている。
懸命に悲鳴をこらえ、親に相談しようかと思った。
母はこれ見たら卒倒するだろう。
母に心配はかけたくない。
とはいえこのままいるわけにもいかない。
パニックになりながら私は沢山考えました。
自分の顔については親に説明されていましたから、
『また顔が無くなったら捨てられてしまうのではないか』
そんな考えも頭をよぎります。
そんな私の思いついたことは、
小学4年生が思いつくにはあまりに残酷なことでした。
今考えれば、もっといい解決策はあったはずなのです。それでもあの時の私にはあれしか思いつかなかった。
『人の顔を貰えばいいんだ。』
姉の顔だってもらうことが出来たんだ。
きっとほかの人の顔だって。
そうだ。そうしよう。
名案を思いついたと思い込んだ私は、マスクをつけ揚々と顔探しに出かけました。
あんなことになるなんて、少しも疑わずに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!