取り敢えず家に帰ろう。
お母さんは私だと気づいて
くれるだろうか。
いや、気づかないわけがない。
元々顔も無かったし、分かってくれる。
そのままにするのは少し
可哀相そうだから、
散乱したサナの衣服をかき集める。
何故かスカスカのサナのランドセルに
拾った衣服を詰めた。
ランドセルを2つ持った不自然な格好だった。
「お母さん今家に居るかな。」
いつの間にか時間は11時半。
もしかしたら買い物に行っているかも。
そんなことを考えながら
家に帰ろうと思った時だった。
「早苗?こんな所で何してるの」
冷たい女の人の声。
それが私に向けられているものだ
ということに最初は気づかなかった。
「その服は何?まぁいいわ。
あなた学校はどうしたの。まさか
遅刻なんてしてないでしょうね」
ぞっとするほど冷たくて、無機質な声。
私は少しでもその声から離れたくて、
早足で歩き出す。
「早苗!!!」
ビクッ
突然の大きな声に驚く。
そして振り返ってしまった。
こっちをじっと見ている女の人と
目が合う。まつげの長い大きな目。
...この人サナに似てる。
そして私は思い出す。そういえばサナの
名前は早苗だった。
じゃあこの人はサナのお母さん?
私のことをサナだと思ってるのだろうか。
私が顔を奪ったサナのお母さん。
その事実を飲み込むと途端、
罪悪感と恐怖が体にのしかかる。
「どうして返事をしないの?早苗?」
「ぁ、ぁご、ごめんなさ...」
唇が戦慄く。うまく喋れない。
「何?ちゃんと喋りなさい。」
サナの母親がサナそっくりの
整った眉の形を歪める。
「ご、ごめんなさい...!」
私はひたすら涙を流しながら走った。
サナのお母さんの声がする。
私は何に悲しんでいるのだろう、
何を恐れているんだろう。
私はがむしゃらに走った。
そして着いた私の家の前。
私は何を疑う事も無く、家の中に入った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。