サナの兄が去った後すぐに安藤が部屋に呼びに来た。
ダイニングに案内される途中、一歩踏み出す事に痛みが走った。
歯を食いしばりながら必死に歩く。
ダイニングに着くとそこには大きなテーブルがあった。ドラマやマンガで見るような、白いテーブルクロスがひかれたテーブル。テーブルの上は色とりどりの花や料理で華やかだ。
「うわぁ...」
思わず感嘆の声が漏れる。
「いかが致しました?」
安藤に聞かれた私は我に帰り
「あ、いや、何でもないです。」
違和感を感じられないよう、少し素っ気なく返した。
席は所謂(いわゆる)お誕生日席。
紙エプロンの様なものを着けてもらいながら周りに目をやった。
安藤と私の他には誰もいない。
この料理は誰が作ったのだろう。
安藤が1人で作ったのだろうか。
私は出来立てであろう、湯気の上がるパスタを見つめる。
つい数時間前には██という存在が消えるのがあんなにも恐ろしかったというのに、私は
『あの湯気のように消えてしまえたら』
そんなふうに思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!