プリ小説

第2話

奇妙なポスト
木枯らしが吹きしきる中、あたしは自宅へと向かっていた。
空は夕焼け色に染まり、辺りはだんだんと薄暗くなっていく。
そんななか、あたしの頭のなかには彼の姿が思い描かれていた。
今日も何度かアピールをしたが、いずれも効果は見られなかった。
だが、勘違いしないで欲しい。
あたしは別に彼のことが好き、と言うわけではないのだ。
ただ単純に、彼を奪って、彼が大事にしているという人の絶望した顔がみたいだけ。
それだけだ。
でも、なぜ、あたしの方を向いてくれないのだろう。
「……なにがいけないっていうの。あたしの、なにが……」
自然と零れた言葉を書き消すように、より一層木枯らしが吹き荒れる。
すると、風と共に小さな声が耳に届いた。



ー・・・あなたの望みはなんですか?・・・ー



ばっと声がした方向を見る。
そこには薄暗い路地があった。
恐る恐る路地へと足を進める。
「………誰かいるの?」
呼び掛けたが、誰もいない。
どうやら気のせいだったようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、元来た道へ帰ろうと振り返る。
次の瞬間、あたしは我が目を疑った。
なぜなら、今入ってきた路地の入り口には、最初は無かったはずの古びたポストがポツンと立っていたからだ。
「……なに…これ…」
携帯を開きポストを照らす。
改めて見ると、とても古そうだ。
どこもかしこも錆びて変色しているし、手紙を取り出すであろう扉には、コケの生えた南京錠がかけられている。
「こんなの、来るときにはなかったはず…って、あれ?なにこれ」
ポストの下には黄ばんだ紙が落ちていた。
「…なになに…『願い事叶え屋さん専用ポスト』」
願い事叶え屋さん?
聞いたことのない店の名前に首をかしげながらも、あたしは続きを読む。
「えっと…『これは願い事叶え屋さん専用のポストです。自分の望みを紙に書き、このポストに入れると、すぐに本店に届きます!そして、翌日には本店の店員が、あなたの望みを叶えにやってくるでしょう!』」
望みを、叶える……
もしこれが本当ならば、あたしが彼を奪うことだって可能なんじゃ……
あたしは震える手で、紙をひっくり返してみる。
すると、裏には赤字で注意事項!と書かれていた。
「…『注意事項!望みを叶えるには、望みの内容と同等の価値のあるものー代償ーが必要です。望みを叶えた夜に、本店の店員が代償を受け取りにあなたのご自宅へ参ります。なお、代償はツケとして後払いにすることも可能です。』」
代償…
代償って、なんなのだろう。
同等の価値のあるものって、お金のことだろうか。
「それなら、うちにはたくさんあるわ」
にやりと笑い、あたしは鞄からメモとペンを取り出す。
そして、こう書いた。

ー氷室雄大を松本美咲から奪いたいー

メモを小さく折り畳み、ポストへと投函する。
そして、そのままポストを避け、元来た道へと帰っていった。
心なしか、少し足取りを軽くしながら。




 



















“彼女”は南京錠を開き、ギィ…と扉を開けた。
中には、さっきの女性が入れたメモ用紙が入っている。
“彼女”はその様子に、少し口角を上げた。
そして、路地の入り口ーさっきの女性が出ていった方向ーを見つめ、ひっそりと呟いた。






『……お望み、承りました』






それは、さっき風と共に聞こえてきた声に、酷く似ていた。

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一月かのん
入賞者バッジ
一月かのん
主にホラー系などの小説を扱っております。 カゲロウプロジェクト・黒子のバスケ・文豪ストレイドッグス・ナカノヒトゲノム・鬼灯の冷徹が好きです。 『君との思い出をこの手に乗せて、』、『願い事叶え屋さん』、『いつも通りの帰り道』、『おはよう、初めまして。』 この4作品は完結済みです。 もしお時間がございましたら、ご観覧していただけると嬉しいです。 追記 『願い事叶え屋さん』を第3回プリコンのホラー賞で入賞させていただきました。 皆様、本当にありがとうございました。