プリ小説

第5話

代償の正体
「氷室くん!」
「み……さき……?」
応えたのは、雄大くんだ。
すると、美咲がこちらに駆け寄ってきた。
「ねえ!氷室くん!私、やっぱり、納得できないよ!」
「な、なにを言って」
「だって、あんなの可笑しい!一方的に別れようっていって、私の同意も得ないで私の前から姿を消して……わたしは、わたしは……」
彼女はぐっとなにかを堪えるように下を向くと、もう一度雄大くんを見つめた。
「……私は、今でも氷室くんが好き。だから、別れたくないよ……」
雄大くんは、黙って美咲の話を聞いていた。
でも、あたしは黙って美咲の話を聞けるほどの余裕なんて、持ち合わせてなかった。
「……ちょっと、なにいってんのよ」
「え?」
ぐいっと雄大くんの腕を引き寄せ、美咲と距離を取らせる。
「あなたは、確か……」
「高橋姫子。雄大くんの今カノよ、元カノさん?」
「……っ!」
美咲の顔が屈辱の色で染まる。
「さっきから黙って聞いていれば、ずいぶんと言いたい放題言ってくれたわね」
「なっ!言いたい放題って!」
「いい?あんたは捨てられたの。雄大くんの隣はあんたの居場所じゃない、あたしの場所なの」
美咲を睨み、あたしは続けた。
「もう、雄大くんはあたしのモノなの」
ぽろり、と美咲の頬を一筋の涙が伝う。
(ああ、これだ。あたしが見たかったのは)
自分のものを奪われたときの、絶望した顔。
それが、あたしが見たかったもの。
にやり、と嗤う。
すべては、計画通りだった。
そう、ここまでは。





雄大くんの目は、美咲の涙をとらえていた。
ただただ、無感情に彼女のそれを見つめていた。
すると、次の瞬間。
「……っ!ちょっと!なにしてるの!?」
突然、雄大くんが美咲の頬の涙を拭ったのだ。
慌てて雄大くんを呼ぶが、全く反応しない。
仕方がないので、腕を引いてこちらへ向かわせようと、した。
だが、できなかった。
「やめろ、高橋」
彼はそう言うと、あたしの手を払った。
サアッと血の気が引いていくのが分かった。
本能が察知していた。
これは、さっきまでの彼じゃない。
美咲と付き合っていた時の彼だ、と。
「ごめん、美咲。俺、やっぱり勘違いしてた。もう一度、やり直したい」
「っ!うん!」
雄大くんの言葉に、美咲は笑顔で返事をする。
「と言うことで、ごめん、高橋。俺やっぱりお前とは付き合えない」
あたしは、なにも思わなかった。
悲しい、とも。
悔しい、とも。
それは、すべての感情が抜け落ちてしまったようだった。
あたしは、二人に背を向けて走った。
ただ、その場に居たくなかったのだ。
気がつくと、あたしはあの路地にいた。
目の前にはポストと、いつもはないはずのものがあった。
「……カナエ?」
「こんにちは!姫子さん!」
なぜ、カナエがこんなところにいるだろう。
いや、今はそれどころじゃない。
ある、良いことを思い付いた。
「ねえ、カナエ。望み、叶えてくれない?」
「おお!いいですよ!何ですか!?」
ふう、と息を吐く。
一瞬目を閉じ、ゆっくりと開く。
あたしの目には、既に光など映っていなかった。

「……松本美咲を殺してほしい」

あたしがそう言った瞬間、カナエは笑顔を張り付けたまま少し固まった。
しかし、すぐに元に戻る。
「はい!了解しました!」
「ありがと。あと、今回は今すぐやってほしいの」
「……今すぐ、ですか?」
「そうよ」
「今すぐ願いを叶える場合、ツケにはできないのですが、良いですか?」
「いいわ」
とにかく、今すぐあいつを殺して欲しかった。
あとのことなんて考えなくても、お金なんていくらでもあるんだもの。
「そうですか」
カナエはそう言うと、大通りの方へ向かっていった。
あたしも後に続く。
カナエの姿を探す。
「あ、いた。カナ……!」
あたしがそう声を掛けたのと、カナエが人差し指をあいつたちに向けて振り上げたのが同時だった。
その瞬間。


「キャアアアア!!」


凄まじい轟音と砂煙。
ごほごほと咳き込みながら辺りを見回すと、皆顔を真っ青にして“そこ”を凝視していた。

“雄大くんと美咲がいたはずの場所”には、夥しい数の鉄柱が散乱していた。
「おい、なにがあったんだ!?」
「鉄柱が上から落ちてきたみたいよ!!」
野次馬たちがざわざわと騒ぐ。
彼らの顔には心配の色が見えていたが、あたしの顔にはそんなもの一欠片もなかった。
やっと、やっと邪魔者をすべて消すことができた。
そんな達成感に満ち溢れていた。
「姫子さん!」
後ろからカナエの声がした。
なに?と問いながら振り向く。
そこには、満面の笑みを浮かべたカナエの姿があった。
「代償、受け取らせて頂きます!」
「ああ、わかったわ、ちょっと待ってね」
そういって、あたしはバッグから財布を取り出そうとした。
だが、カナエはハテナマークを浮かべながらなにをやっているんですか?とあたしに聞いてきた。
「え?なにって代償を払うために財布を……」
「いやいや、代償はお金では無いですよ?」
「え?」
お金では、無い?
「だとしたら、何が代償なのよ?」
「そうですね、代償って言うのは、毎回願いの内容によって変わるんですけど……」
今回で言うと……と口元に手を当てながらカナエは続ける。
「今回で言うと、命ですかね?」
ニッコリと、感情の読めない笑顔でそう言った。

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一月かのん
入賞者バッジ
一月かのん
主にホラー系などの小説を扱っております。 カゲロウプロジェクト・黒子のバスケ・文豪ストレイドッグス・ナカノヒトゲノム・鬼灯の冷徹が好きです。 『君との思い出をこの手に乗せて、』、『願い事叶え屋さん』、『いつも通りの帰り道』、『おはよう、初めまして。』 この4作品は完結済みです。 もしお時間がございましたら、ご観覧していただけると嬉しいです。 追記 『願い事叶え屋さん』を第3回プリコンのホラー賞で入賞させていただきました。 皆様、本当にありがとうございました。