俺の手には人を刺した感覚が残っている。
包丁には血が滴っていて、床に血の池を作っていた。
血を出して倒れている女を見ていると快感という感情が湧き出てきた。
この赤。なんて綺麗なんだろうか。クリスマスの飾りなんかより断然綺麗だ。
「か、母さん!」
部屋にいる別の奴の声で俺は現実に戻される。
男の子がこちらを恐怖を宿した目で見ている。
俺は男の子に名前を聞く。
けれど、一向に答える気配がない。
答える気がないのか?違うな。答えられないんだろう。
俺は男の子に近づいた。
男の子の顔は一層恐怖に歪む。
そうだ。その顔だ。それが俺の快感を呼び起こす。
俺はもっとその顔が見たかった。
どうすれば見れるのかを考えた。
考えた結果、血のついた包丁を男の子には降り下ろした。
勿論、包丁は男の子を外した。殺したら、見れないからな。
「じ、じゅん。」
男の子は震える声で教えてくれた。
俺と同名じゃないか。おもしろい。まるで、……。
「じゅん君。俺とお前が今日ここで出会ったのは運命だったんだ。俺はお前に母親の死をクリスマスプレゼントにあげた。お前は俺にその恐怖に歪む表情をくれた。」
じゅん君の頬に触れるとその小さな体が震えているのが分かった。
じゅん君の目は恐怖だけを映し出していたわけじゃないようだ。
別の何かを……。そうか、俺の言動に対する疑問か。お前には分かるはずがない、俺のこの気持ちを。
「これだけは覚えておけ。俺とお前は運命の糸で繋がっているってことをな。」
俺はじゅん君の頬から手を離した。
俺はそのまま玄関へ戻る。
ドアノブに手をかけた時、忘れ物を思い出した。
プレゼントをくれたじゅん君に言わなくてはいけない。
「メリークリスマス、じゅん。」
俺はこの日を忘れない、最高のクリスマスを。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!