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第1話

愛とは。
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2017/12/10 10:25
夜の空間に軋むベット、
そんな中漏れる声が自分の声ではないように聞こえるのはなぜだろうか

痛みも何も感じない。
もう、何も感じない。

私に重なる、昨日出会ったばかりの彼は、私のことを愛したいと言った。
好きだ、とも言った。
私も彼に好きだ、と言った。

彼が私を好きだと言ったから
彼が私を愛してくれると約束してくれたから。

彼の白く細い指が優しく私の頬に触れる。
彼の顔は、私のようにどこかに感情をなくしていた。
けれど私には、泣いているように見えた。

私は愛なんて知らない。
だから今私たちがこうしていることが、ただしいのか間違っているのかわからない。

人が僕たちを見てどう思ったとしても、私たちにとってこれは、どうしようもなく愛なのだ。

いつ壊れてしまってもおかしくない、
確かめ合うだけの愛。
けど、それを望んだのも、紛れも無い私だったのを覚えている。

この恋を忘れてしまうほどの愛が欲しい。

私が記憶をなくす前にした恋は、これとは全く違ったはずだ。
愛が欲しいと望んだ、前のボクは、なぜ愛も知らないこんな私に頼んだのだろうか。
彼の指が、どこか暖かい瞳が、頭の中の誰かと重なっていくのもそれと関係しているのだろうか。

ふと、私の頬に一粒の雨が落ちた
それは、私の真上からだった。
深い青の中にどこか寂しさの残る瞳から、雨がひとつ、ふたつと落ちてくる。

彼が泣いている

それだけ認識すると、僕の手のひらは自然と彼の頬に触れる。

彼に触れる皮膚が、肌が、瞳が、心が
全てが暖かかった。

ポツリ、と頭の中に浮かんだ言葉を言ってみる。
それは誰かの名前だった。

なんなんだろう、
心の次は瞳が熱くなってきた。
私の瞳から降った雨は、静かにシーツを濡らしていった。

私は、この感情を少しだけ覚えている。
暖かくて、冷たくて、そしてたまに痛い。
でもやっぱり吐き気がするほど甘い。
これをなんというのかはわからないけど、前のワタシは確かにこれを感じていた。

もう一度さっきの言葉をつぶやく。
今度は心に染み込んでゆくように、よくわからない痛みが生まれる。
けど、それを鬱陶しいとは思わなかった。

そうか、前のワタシが、
私が探していたのは、
忘れてしまった恋でも、知りたくもなかった愛でもない。

「あなただったんですね…、そらるさん」

私が探していたのは、彼だったんだ。

終わり

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