中学1年生の冬だった。
同じクラスに松田サトシくんという男の子がいた。
今年の6月にわたしたちの中学校へ転校してきて、すぐに彼はクラスメイトから嫌なことをされるようになった。
教科書に落書きされたり、プリントを窓から投げ捨てられたりしていた。
上靴を履いていないときもあった。
クラスの誰かが隠したせいだった。
サトシくんは、いつも無表情だった。
何かされても、先生に言いつけるわけでもなく、ただされたことをされたまま受け止めていた。
泣くこともしなかった。
嫌なことやひどいことを言われても、黙って視線をそらす。
無表情の彼は、いつも自分の席に座って窓の外を眺めていた。
わたしはそんなサトシくんを見るのがつらかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。