私は今、他の人から見たら不審者だ。
私は図書館の前にいる。手には黒に青と緑のチェック模様のハンカチを持っている。匂い臭くないかなとかどうでもいいことを考えながら、かれこれ30分程うろうろしている。
今、このドアを開けるか開けないかの究極の二択が私を襲っている。
いや、さっさと開けろよ。
って自分にツッコミながらも、ドアに手がかかるかかからないかのギリギリの所で手が震えている。
(よしっ、もうこの際思い切って開けよう。これを返したらすぐに帰ればいいし!うん、そうしよう!)
そう思いドアに手をかけ、思いっきり開こうと手を動かしたらドアが軽い。あれ…?
すると目の前に昨日の男の子が立っていた。
「う、うわあああ!!!!?!?!」
驚きすぎて尻もちをついてしまった。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?w」
自分に伸ばされた手を掴み、なんとか立ち上がる。
男の子は笑っている。
「な、なんですか。そ、そっそっちが悪いんだからね?!」
「ごめんごめん。なんか誰かがドアの前にずっと居るから開けてあげた方がいいのかと思って。そしたら君だった。」
「そ、そう…。あ、そうだ。あの、これ昨日のハンカチです。洗濯とアイロンしておきましたので!そ、それじゃっ!私はこれで!」
「あっ、ちょっとまって!内山梨紗さん!」
(…えっと…。な、なんで私の名前を…?)
「今日は本、読んでいかないの?」
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結局圧に押されて今日も本を読んでから帰ることにした。しかも前には見知らぬ男子。
(私、なんで今ここにいるの。てかこの人何者なの。ちょっとイケメンだし。いやこれ本なんて読める状況じゃないんですけど?!恋愛漫画とか小説ならここ胸きゅんのシーンだよ?!なんなんだ一体…!私の平凡な日々を返してくれ…!!!)
「…ん?どうしたのそんな真剣な目で俺を見つめて。」
「いやその言い方辞めてもらえます?!てかなんで私の名前知ってるんですか…」
「うーん、秘密。」
(いやいやいやいや、何なんだこいつ!なにが秘密だよ!!!見知らぬ人に名前知られてるとかもうこの上ない恐怖だぞおい?!それに普通に会話してるし…。この人、私の何を知ってるの?)
「あの、どういう狙いか分かりませんが、私特にいい所も無いですし、他の女の子の方がもっと話相手になるかと…。」
「え、なになに、なんか変なこと考えてる?さては俺のこと不審者扱いしてんだろ。いやそう思われても仕方ないけどさ。でも、自分にいい所ないなんて言うなよ。もっと大切にしろ、自分を。」
彼は本を閉じて席を立ち、そのまま出ていってしまった。
(ん…?これ私なんかしたのかな…?…自分を大切にしろ、か。)
彼の名前を聞くのを忘れた。
明日もいるかな?次会った時に聞いておこう。私だけ知られてるのもなんか嫌だし。
そうして彼と会う口実を、心のどこかで作ろうと必死だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!