あなたは知っているだろうか。
僕は初めからあなたを選んでいたことを。
あなたしか見ていなかったことを。
こんなことを言ったらまたあなたを困らせてしまうだろう。
雪の降る真っ白な日、僕はあなたに恋をした。
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僕は"弱虫"だった。
学校には来ていたものの、授業は受けずに図書館で暇つぶしをして帰る。勉強はそんなに困らなかったし、第一に人が苦手だ。
そんなつまらない日々を送っていた。
ある日君と出会うまでは。
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外に降る雪の寒さにも負けないほどの、陽が差していた。
その日の暖かさにつられ、窓際の席で眠ってしまっていた時の話だ。
誰かがドアを開ける音で目が覚めた。
慌てて本棚の後ろへと隠れ、様子を伺っていた。
上履きの色が同じ。きっと同じ学年であろう。
彼女はさっきまで僕がいた場所に座って、勉強
をし始めた。
と思ったらカバンから本を取り出し、静かに読み始めた。
なるほど。どうやら彼女と僕は似ているらしい。
しばらくして彼女は眠ってしまった。
さっき彼女が本を読みながら何かを書いていたので、僕は少し覗いてみることにした。
「僕は何も出来ない弱い人間だ。ただそこに弱さの理由はない。自分を変えられないところに弱さがある。」
__僕はこの言葉に何度救われたことだろう。
ふと裏返しに閉じられた教科書に目がいった。
「内山梨紗」
(僕と同じ苗字だ…。)
僕はこれから、彼女に恋をする。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!