「良いんじゃない?その服」
声が聞こえたから驚いた。
ショーウィンドウ越しに彼の姿が見える。
振り返るとそこに彼がいた。
私服姿の彼を見て、緊張感が急に迫ってきた。
「ごめん、ちょっとコンビニ寄ってて。」
「あ、うん…。」
「…じゃあ、行こうか。」
「うん。」
彼の隣を歩く。
身長が意外と高い。男らしい体型だ。
私に合わせてくれているのか。
彼は少し遅いテンポで歩いていた。
私もそのテンポに合わせて歩く。
さっき私、ちゃんと話せてたかな?
とりあえず声を発するだけで精一杯だった。
最初はハンバーガー屋でハンバーガーを食べた。
そのあとゲームセンターで少し遊んだあと、書店に寄り本を買った。私が食べたいと言ったからパンケーキ屋にも行った。
あっという間に時間はすぎ、緊張も段々溶けていった。
そして映画の時間になった。
彼は当日になっても何の映画なのか教えてくれなかった。
少しモヤモヤしながら指定された席へと座る。
彼がさっき買ってきてくれたポップコーンを食べながら、映画が始まるのを待つ。
明かりが消え、暗闇に包まれる。
前のスクリーンが眩しく光り、引き込まれる。
最初は何の映画なのか分からなかった。
でも見ていくうちに気づいた。
これは間違いない。私の好きな小説の実写版だ。
「「弱虫」」
思わず声に出てしまった。
だが、一瞬彼の声が聞こえた気がした。
でも隣を振り向くと彼は真剣な表情で映画を見ていた。
気のせいか。
にしてもこれは、偶然か…?
それとも…。
いや、これは知り合いに貰ったチケットって言っていたし、きっとこれは偶然に違いない。
今はそう、思うしかなかった。
___ポップコーンがとても甘い。
映画が終わり外に出ると、空が紅かった。
君と初めてあった頃を思い出し、少し胸が熱くなる。
私達はその後、カフェで少しお茶をしてから
待ち合わせをした駅で解散することにした。
「…じゃ、じゃあ、私あっちだから。…あの、今日はありがとう。楽しかったです。」
「あ、うん。俺も楽しかった。ありがとう。」
「じ、じゃあ、また明日。」
「…ち、ちょっとまって!」
驚く間も無いまま、彼は私の手を掴み急に走り出した。
「え、ち、ちょっと!どこ行くの?!」
彼は答えることなく、息を乱しながら一目散に走っていた。
私はただ黙って、彼の跡を追いかける。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。