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第9話

雪の降る日に、また君に恋をした。
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2017/12/15 01:49
___とても長い夢を見た。

それはとても不思議なもので、
でもとても甘い甘い夢だった。



私は肺がんを患っている。
あとから聞いた話だと私はここ1ヶ月間ずっと、眠ったままだったらしい。

重い体をなんとか起こし、窓の外を眺める。
外には真っ白な雪が積もっていた。
どんな宝石にも負けないほどの、キラキラ光るとてもキレイな…。

(え、何この花…。)

窓の傍に白い一輪の花が咲いていた。
ふわりとした柔らかい、暖かい花の匂い__。

本当は医者に止められていたが、ベッドのそばに置いてある車椅子に自力で乗り、その花のそばまで移動した。
ほんのちょっとの運動でも、息が乱れる。

なんの花だろうか。
真っ白なその花びらは、微かにキラキラとしていた。
とても不思議だ。

すると白いモヤが私を包んだ。
目を閉じ、しばらくしてまた目を開ける。

(人影が…見える…?)

花があった場所に立っていたのは、夢の中でしか会えなかった、彼だった。
あの頃みたいに、あの優しい微笑みを浮かべて…。
涙でぐちゃぐちゃな顔が恥ずかしい。

「…迎えに来たよ。」

「な、なんで…っ」

「俺がそうしたいと思ったから。」

そう彼は答えて、にいっと笑って見せた。

(そんな笑顔、ずるいよ…。)

「…もう泣かないで。俺がいるから。
約束したでしょ?君が自分を見失ったら、俺が君を見つけてあげるって。だからほら、ね?」


自分に差し出された手をゆっくり掴む。
彼が私の涙をハンカチで拭き、
私の手でそっと、それを包ませた。

「これは君がずっと持っていて。これが俺の印。」

「…うん。あ、これ…。」

そう言ってカバンの中から本を取り出した。

「この本はあなたが持っていて。これは、あなたと私の…印…だから。」

「うん、分かったよ。」

そう言ってまたあの笑みを浮かべる。

本当に君は、最後までずるいなあ。

「…最後に。あなたの…名前を…。」

「…俺の名前は、内山涼。」

「…っ。私と…同じ…。」

「うん、同じだ。」


お互いの存在を確かめるように、
しっかりと、手を繋ぐ。



「…。内山涼…。」

「内山梨紗。」




「「あなたの事を、愛しています。」」




白いモヤに再び包まれる。
今度は目を瞑らずに、最後の最後まで彼を見届けた。
キラキラとしたものが、舞い散る。
それは白い一輪の花の上にそっと、降り掛かった。


ハンカチの中に指輪と手紙が挟まっていた。

"To you the eternal love"
(永遠の愛を君に___。)

指輪には『内山涼』がローマ字で掘られてある。

…やっぱり私達は似たもの同士だな。


__________________


彼女からの本を眺める。
今にも泣き出しそうなのを必死に抑え、
1ページ、1ページ、大切にめくる。
(あれ、しおりと…指輪…?)

しおりにはこう書かれていた。

"To you the eternal love"

指輪には、『内山梨紗』がローマ字で掘られてある。

…やっぱり俺たちは、似たもの同士だ。

__________________


私はそっと、白い花に接吻(キス)をした。





___雪の降る日に、私は(俺は)また君に恋をした。

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