___とても長い夢を見た。
それはとても不思議なもので、
でもとても甘い甘い夢だった。
私は肺がんを患っている。
あとから聞いた話だと私はここ1ヶ月間ずっと、眠ったままだったらしい。
重い体をなんとか起こし、窓の外を眺める。
外には真っ白な雪が積もっていた。
どんな宝石にも負けないほどの、キラキラ光るとてもキレイな…。
(え、何この花…。)
窓の傍に白い一輪の花が咲いていた。
ふわりとした柔らかい、暖かい花の匂い__。
本当は医者に止められていたが、ベッドのそばに置いてある車椅子に自力で乗り、その花のそばまで移動した。
ほんのちょっとの運動でも、息が乱れる。
なんの花だろうか。
真っ白なその花びらは、微かにキラキラとしていた。
とても不思議だ。
すると白いモヤが私を包んだ。
目を閉じ、しばらくしてまた目を開ける。
(人影が…見える…?)
花があった場所に立っていたのは、夢の中でしか会えなかった、彼だった。
あの頃みたいに、あの優しい微笑みを浮かべて…。
涙でぐちゃぐちゃな顔が恥ずかしい。
「…迎えに来たよ。」
「な、なんで…っ」
「俺がそうしたいと思ったから。」
そう彼は答えて、にいっと笑って見せた。
(そんな笑顔、ずるいよ…。)
「…もう泣かないで。俺がいるから。
約束したでしょ?君が自分を見失ったら、俺が君を見つけてあげるって。だからほら、ね?」
自分に差し出された手をゆっくり掴む。
彼が私の涙をハンカチで拭き、
私の手でそっと、それを包ませた。
「これは君がずっと持っていて。これが俺の印。」
「…うん。あ、これ…。」
そう言ってカバンの中から本を取り出した。
「この本はあなたが持っていて。これは、あなたと私の…印…だから。」
「うん、分かったよ。」
そう言ってまたあの笑みを浮かべる。
本当に君は、最後までずるいなあ。
「…最後に。あなたの…名前を…。」
「…俺の名前は、内山涼。」
「…っ。私と…同じ…。」
「うん、同じだ。」
お互いの存在を確かめるように、
しっかりと、手を繋ぐ。
「…。内山涼…。」
「内山梨紗。」
「「あなたの事を、愛しています。」」
白いモヤに再び包まれる。
今度は目を瞑らずに、最後の最後まで彼を見届けた。
キラキラとしたものが、舞い散る。
それは白い一輪の花の上にそっと、降り掛かった。
ハンカチの中に指輪と手紙が挟まっていた。
"To you the eternal love"
(永遠の愛を君に___。)
指輪には『内山涼』がローマ字で掘られてある。
…やっぱり私達は似たもの同士だな。
__________________
彼女からの本を眺める。
今にも泣き出しそうなのを必死に抑え、
1ページ、1ページ、大切にめくる。
(あれ、しおりと…指輪…?)
しおりにはこう書かれていた。
"To you the eternal love"
指輪には、『内山梨紗』がローマ字で掘られてある。
…やっぱり俺たちは、似たもの同士だ。
__________________
私はそっと、白い花に接吻(キス)をした。
___雪の降る日に、私は(俺は)また君に恋をした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。