プリ小説

第40話

バルドルと真穂
「えっと、こっち…ですか?」
「ええ、この道をもう少し歩くと、私達の───ヘズルの家です」
真穂とバルドルは、森の中に作られた道を進んでいた。
いつもは澄んだ空気の流れる美しい森も、今日ばかりは何故か澱んでいる。
もう昼だと言うのに暗く、葉の合間から見える空を見ると曇ってきている。
それが真穂の中の不安を不気味なまでに掻き立てた。

「…真穂さん」
ふと、バルドルが口を開いた。
「は、はい?」
突然の事に少し驚く真穂。
歩きながら、バルドルは真穂を見る事無く話す。
「私は当初、貴方を軽蔑していました。貴方がオーディンだと言う事を、認めたくありませんでした」
「…」
存じております、とは真穂は言えなかった。
なんだかこれが、バルドルの本当の心な様で。
「ですが、悪魔を鎮める貴方を見て…見事に考えが変わりました。貴方はオーディンとは違った形で、神界を任せられる、と」
「バルドルさん…」

「ですから、もう今は神界の神達に真穂さんの事を知らせても何ら問題は無いかと…きっと、受け入れられる筈です」

その言葉に、真穂は訳が分からなくなった。
神達に、真穂の存在を知らせても、何ら問題は無い…
おかしい。
既に、真穂は神界の神達に認識されて貰っている筈だ。
バルハラから外に滅多に出ない真穂だが、1度くらいなら挨拶はした事がある───ハズ。
だが、今のバルドルの言葉が本当ならば、自分は神界の神達に存在を知られていない、という事になる。
そうなると、真穂の記憶とまるで違う。
どういう事だ、だが、バルドルが嘘をついている顔には見えない───

そうこう考えているうちに、木々の間から巨大な屋敷が見えてきた。
差詰め、あれがバルドルとヘズルの実家だろう。
「真穂さん」
「は、はい」
バルドルは、歩く足を止めると真穂を見据えた。
釣られて真穂も止まり、バルドルを見る。
バルドルは、見た事も無い程穏やかな表情だった。
「ありがとうございました」
「え…」

不気味だった森の中も、その一瞬は美しかった。
澱んでいた空気も、その一瞬は清らかだった。
花弁が舞う様に、葉が散っていった。

いつの間にか、すぐ側にバルドルとヘズルの家があった。

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