プリ小説

第37話

本物は
「…ここ、は…」
バルドルは、草原の中に居た。
広く続く、冷たくも清らかな風が流れる草原。
所々に咲く花を避け、バルドルは歩き始めた。
何処へかは分からない。
だが、無性にここが懐かしかった。
(ああ、そうだ)
ここは、光を失う前に最後にヘズルと遊んだ場所だ。
そして記憶を辿り、ヘズルの居た方へと歩んで行く。

「兄さん!」

思った通りだ。
バルドルの進んだ場所に、ヘズルが居た。
だが、そこに居たのは記憶にいる頃の、幼いヘズルでは無い。
目の前に居るのは、紛れも無く成長した、今のヘズル───
バルドルは思わず駆け寄った。
「ヘズル…!!」
「兄さん、ありがとう!兄さんのお蔭で、ほら!」
ヘズルはバルドルの手を温かく掴んだ。
そして、近寄り瞳の中を見せる。
「僕、また見えるようになったよ!!」
「ヘズル…!!良かっ…」

───待て。これは、夢だ。
バルドルは喜ぶ自らを制止させた。
───俺はまだヘズルに薬を渡していない。
疲れてこんな夢を見たのだろうか。
だが夢なら何故、感覚がある?
風は冷たい。
ヘズルの手は温かい。
───そうか、これは

「フレイ、居るんだろ」
バルドルは静かに呟いた。
しかしその言葉に反応したのは、ヘズルだった。
パッとバルドルの手を離すと、俯いた。
「…」
「…ヘズル?」
すると、ヘズルはくつくつと肩を震わせ、笑い始めた。
「兄さん…ひ、酷いや…はは…」
「な…」
「最後まで騙されていれば良かったのに!!」

瞬時にバルドルはそれを避けた。
ヘズルが握っていたそれは、鋭い刃物。
狂気の笑みを浮かべ、ヘズルはゆっくりとバルドルの方を向いた。
「!!」
それは最早、ヘズルの表情では無かった。
フレイと呼ぶ方が相応しい。
ヘズルの姿をしたフレイは、刃物を振り回しバルドルに襲い掛かった。
「やはりこれは、お前が視せた夢なんだな、フレイ!!」
「あはははは、そうだよ、馬鹿なバルドル!!」
一瞬の隙を突き、フレイはバルドルを倒れさせその上に乗った。
そして、刃物を腹部目掛け振り下ろす。
「さよなら、兄さん…」


最後に、ヘズルがバルドルの腹を刺した。

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