【黒い髪に、赤い薔薇を___。>>2】
目の前にあるこのドアは、今まで見てきたものと違った。
今までは木材で造られ、ドアノブが錆びている古びた小さなドアだった。
でも今回のは違う。
大きくて、ドアノブは金で出来ていて光沢があり、扉全体が金と赤のツヤツヤとしたものだった。
どこも古びた様子がない。
恐る恐る、震える手がドアノブへと伸びる。
腰が抜けそうな体を足で支え、なんとか前へ進む。
どうやらこの部屋は、ダイニングルームらしい。
真ん中に縦長の大きな木造机が置いてあり、
その脇にいくつか椅子が並べてある。
一番奥には少し豪勢な一回り大きい椅子があった。
部屋の奥には2つ部屋がある。
なんの部屋なのか気になり恐る恐る覗こうとした。
すると自分が開ける前にドアが勝手に開き、
と思うと中から人が出てくる。
黒いスーツに身をまとった執事らしき男の姿…っ?!
あ、あれは…。
…いや間違いなくそうだ。
そこに居たのは、さっき死体で見たハズの友人の姿だった。
「お、お前…どうして…ここに…。」
そう言いかけたところで後ろからまた人が出てくる。
コツ、コツ。
と甲高く鳴り響く靴の音。
そこから現れたのは、ツヤツヤとした黒い髪の毛をもち、赤い口紅にキラキラと光る黒いドレスとヒールを身にまとった女だった。
薔薇のような美しさが見て取れる。
魔女のような容姿だが、薔薇の様に美しい。
その美しさに見とれていると、女が友人に声をかける。
「お客様へのお料理をお持ちして。」
「かしこまりました。」
友人はまるで、別の人間のようだ。
スタスタとまた先程の部屋へ戻ってしまった。
女がほほ笑みを浮かべてこう言う。
「ご挨拶がまだでしたわね。私はこの館で魔女をやっている者です。
色々聞きたいことが山ほどあるかとお思いですが、ひとまずどうぞお席におかけになって下さいませ。」
「…は、はあ…。」
女が示す席へ腰を下ろす。
その席は少し豪勢な椅子のすぐ隣の椅子だった。
もうすでにナイフやフォークやお皿が用意されていた。
女は先程の少し豪勢な椅子に深く座る。
(普通客の俺がそこに座るものなんじゃないのか…?)
とは思ったがそんなことは到底言えない。
すると容姿が友人のあの男が料理をワゴンに乗せ、運んでくる。
美味しそうなチキンやスープなど、
意外としっかりした普通の料理で安心した。
魔女の館なのだからやはり、少し覚悟はしていたのだが。
どうやらそいつも食事を共にするらしい。
俺の目の前の席へ座り、食事の準備をする。
(やっぱりどこを見てもあいつだよな…)
こちらの視線に気づいたのか、一瞬目があった。
そのときの友人の顔が、なんだか少し葛藤しているようだった。
焦りと不安と恐怖が見て取れる。
…何故そんな顔をする。
やはり彼には何かがあるのだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。