第20話

人形
3,657
2018/01/20 08:04
朝、目を覚ますと、

カーテン越しに差し込む朝日が

とても綺麗で、美しくて、

こんな素敵な朝の起き方があったんだと

何故か感心してしまった。



ふと思った。

ジミンさんはどこ?

ベットから起き上がり、

ベットルームの戸を開け、

とても広いリビングらしき所へと、

足を踏み入れた。

すると

美味しそうな匂いが私を包み込み、

キッチンで何かを作っている、

ジミンさんの姿が目に入った。

ジミン
あっ起きた?おはよう
あなた

おはようございます

ジミン
朝ご飯、もう少しで出来るから。
そこの椅子に座って待ってて。


指定された椅子に座る。

何か落ち着かなくて、

辺りをキョロキョロしたり、

テーブルをトントンと叩いたりした。

ジミン
出来たよ!朝ご飯!
はい、どうぞー!


凄い。

焼いた食パンの上に、目玉焼きが乗ってあって

お皿には、サラダとウインナー。

いたって普通の朝ご飯だけど、

輝いて見える。

ジミン
普通だけど…
あなた

めっちゃ美味しそうですよ!
いただきまーす!

ジミン
じゃあ僕も。
いただきまーす


二人で囲む朝ご飯の景色が、

懐かしかった。

こんな景色、久し振り。

ジミン
なんか泣きそうだよ?
大丈夫?
あなた

えっ、あっ、ごめんなさい
なんかこんなの久し振りで…

ジミン
僕も何年ぶりだろう。
誰かと一緒に家でご飯食べたの
あなた

一緒、ですね

ジミン
そうだね


食べ終わると、

ジミンさんが食器を洗ってくれた。

お金持ちなのに、お手伝いさんも雇わずに、

自分で自炊して、家事もして、

凄いと思った。

ジミン
今日はさ、あなたちゃんは家帰ろ。
家帰って、荷物取って来て、
僕が送り迎えしてあげるから、
それで僕の家に帰ろ。


実を言うと、帰りたくない。

あの家には辛い記憶が山ほどある。

そんな家に帰るのは、

私にとって生き地獄なのと同じくらい、

嫌なことだった。


でも、用を済ませば、

ジミンさんと生活できる。

そう思って、帰ることにした。








ジミン
ここ?お家?
あなた

はい、そうです

ジミン
ここで待ってるね
あなた

ありがとうございます



ドアを開けて、

家のドアの前に立っている。

自分の家に帰るとは思えないくらいの、

不安と緊張に襲われている。



ガチャ



ほこりっぽかった部屋は、

より一層ほこりがたっていて、

本当に嫌だ。


足早にクローゼットに向かい、

服を自分のキャリアケースに詰める。

詰め終わったら、自分の部屋に向かう。

必要不可欠な物だけと思ってたけど、

一つだけ持っていきたいものがあった。

それは、

好きだった歌手のグッズやポスターやCDでもなく

参考書や勉強道具でもなく、

私が持っていきたかったものは




あなた

あった…





私が探していた物。

それは、一つのライオンの人形。

誕生日の時、グクに貰った物。

大切にしてた。

その人形の面影が、

何処と無くテヒョンに似ていた。

この人形は、

私の大切な人の事が、沢山詰まってる。


忘れることは無いんだろう。

あの人の事を。

いや、忘れたくないんだ。

かつて、愛していたあの人を。


キムテヒョンを。





部屋を出てから、リビングにもう一度入り、

部屋を見渡した。


辛い記憶とはもうさよなら。

でも、

二人の事は忘れないと誓う。


それが私の、私なりの愛の形。

そして、新しい人生へと向かっていきたい。


リビングを出て、

希望を込めて、家のドアを閉めた。

ジミン
おかえり
あなた

待たせてごめんなさい

ジミン
じゃあ行こうか


私はライオンの人形をぎゅっと抱き締めて、

そのまま寝てしまった。














連れていかれる場所は、


ジミンさんの家では無かった。


私の希望は、


残ることなく崩れ落ちた。

プリ小説オーディオドラマ