プリ小説

第4話

あなたは
誰もいない大きな部屋で私は1人、ベッドに入って寝る準備をした。
この、よく分からない心臓の宝石は今も誰かが狙っているかもしれない。
誰かに殺されてしまうかもしれないし、誘拐されるかもしれない。
こうなったらいっそ、早く死んでしまえ。
シーツに隠れるように眠りにつく。
色々なことを考えた。
このドア越しに誰かが覗いているかも。屋根から見張ってるかも。
何にしろ怖い…。
そんなことを考えていたせいだろう。
いきなり窓がぎいっと音を立てた。
それからゆっくりと窓が開いていく音が響く。
さっき自分が想像していたようなことが起きていて怖くなって、見る気になれない。
きっと震えてると思う。でも、体はそれ以上動いてくれない。
窓から、誰かが入った。
床に靴がつく音がした。
それからだんだんと、足音はベッドに近づいているのがわかる。
殺される。殺される。殺される…!
死ぬ前に泥棒の顔を見てやろうと思って、勢いよくベッドから出ようとしたその瞬間。がたんと音を立てようとしたその瞬間。何かが頭に触れた。

「しぃー…。音は立てないで。
気づかれちゃう。周りに泥棒がいるかもしれないよ。」

シーツ越しに私の頭を撫でるように触れながら、その泥棒は言った。
気づかれる?周りに泥棒?貴方も泥棒でしょ?
ぐるぐると疑問が湧く。
ひとまず音を立てないようにベッドから起きる。
そこに居たのは、仮面をかぶった男だった。

「君の心臓には宝石が埋まっているんだろう?」

そうよ。埋まってるよ。
…でもここで頷けば、殺されてしまう。
悩んで悩んで私は固まってしまう。

「大丈夫。僕はほかの泥棒と違う。
怪盗なんだ。君を殺したりしない。
僕は君を守りに来たんだよ」

怪盗…?華麗な手口でモノを盗むあの…?
私を守るって、盗みに来たんじゃないの?

「僕だって一応名の知れた怪盗なんだ。僕が君を盗もうとしてることが広まれば、周りの泥棒は手を引くだろう?」

そうかもしれないけど…。
この怪盗の言葉、信じていいのかな。
その前に、この人は本当に有名な怪盗なの?
私を守ってくれるとか言っておいてあとから殺したりしないかな。

「僕と一緒にこの街を抜け出そう。
僕の屋敷で暮らそう。
僕は宝石には興味無いんだ。」

怪盗は私に手を差し伸べた。
私は今人生の分かれ道にいる気がする。
この屋敷にいてもいつかは泥棒に殺される。
この屋敷から、街から逃げ出せば、怪盗の屋敷に着くまでは多分殺されない。きっと最後は殺すよね。
どうしたらいい…?
私の脳についていけなかった私の手は、いつの間にか怪盗の方へ伸びていった。
ゆっくりゆっくり進む私の手を、怪盗は焦りもせず待っていた。
もしかしてもしかしたら、この人はいい人なのかもしれない。
そう思った瞬間、私は怪盗の手を取っていた。
怪盗は少し嬉しそうだった。
仮面をつけていたけど、なんとなくそんな感じがして。
それからぎゅっと私の手を握ってきた。

「行こう。」

彼の屋敷へ。彼を信じて。
私はこくんと頷いた。
彼は固まったままの私を抱き上げて、窓から飛び降りた。
それからずうっと奥の森まで、夜空を飛んで進んでいく。
寝巻きの私が夜風にあたって寒がっていることに気がついた彼はそのとたん、私をさらに強く抱きしめた。
森の奥は、私が知らない遠い街。
きっと、母様や父様が目指して行った街。姉様が夢見た街。
私がひとり、置いていかれたこの街はもう遠く向こうの方で、森が目の前に見えてきた。
下を覗くと建物がものすごく小さく見えた。どれだけ高いところを飛んでいるかが分かる。
もう自分の屋敷がどこにあるかさえわからない。
少し怖くなって、彼の首に回していた手を握り直した。
彼の顔がすぐ近くにあって、仮面をとったらどんな顔なんだろう、と考えていた。
ひゅうひゅうと吹く風に揺れる髪はとてもさらさらで綺麗に見えた。
それから少しずつ空から離れていって彼は私を森の前で下ろした。
彼はこちらを向いて、背の低い私に目線を合わせて、

「ここからは歩いていこう。いつもなら飛べるんだけど二人もいるし、魔物に捕まったら大変だからね。」

と言った。
魔物…。
魔力のない私は絶対に捕まってしまいそう。
はい。と声を出したつもりだったけど息が混ざって音にならなかった。
その分、私は大きく頷いた。
そして彼の手を取る。今度は自分から。

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こまいぬ
こまいぬ
僕はたまに歌を書いたりポエムを書き留めたりお話を書いたりします