プリ小説

第5話

彼と
しばらくすると、小さな家を見つけた。
彼も通ったことがなく、知らなかったようだ。

「もし大丈夫なら、今日はここに泊まろうかな?」

私はまた、大きく頷く。
やっぱりまだ、声が出そうにない。
扉の前に二人で近づいて、彼がノックする。
家の中では呪文を唱えている女の人の声。
呪文を唱えるのに夢中なのか、ノックの音にまるで反応しない。
彼はもっと大きくノックをした。
────ドンドンドン!
呪文の声が止まって、足音が近づく。
そして、扉が開く。

「なんか用~〜??」

出てきた女の人はだるそうに、眠そうにそう言った。欠伸をしている。
ただ…。
女の人の顔に視線をやった時、無意識に凍りつきそうになった。
怖くなって、彼の大きな背中に隠れる。
彼は、ん?と声を出して、不思議そうにしている。
知らなくて当然。わからなくて当然。
そう。彼女は私を捨てていった一人。
私の姉。
姉様もすぐに気づいてしまったみたいだった。

「ねえ、お兄さん??後ろの娘、ちょっと見せてえ~?」

強引にどけさせられた彼の後ろから、私が顔を出す。
ガクガクと震えてるはず。
彼は、不思議そうな目で私たちを見ている。

「やっぱりだ~♪」
「なにが、やっぱり、なんです?」

彼は直接話に加わってきた。
入ってきたら危ないよ。
姉様は何をするかわかんない…。

「この娘はぁ、私の妹なのぉぉ!!」

ケラケラ笑いながら姉様はそう言う。
きっとお酒を飲んでたんだろうな。
怪盗の彼の方に目を向けると、何かを考えるように指を顎に当てていた。
それから少ししてはっと、彼が閃いたように見えた。

「あなたがお姉さまなら、彼女の心臓に埋まってる宝石のことは知っているよね。君ならこの宝石を取り出せるんじゃないかい?」
「えぇ~。めんどくさっ。そーだ、お兄さんがやればいいじゃぁーん」
「僕にそんな魔力はないよ」
「えぇ〜でもぉ~!」
「でも?」
「宝石埋めたのあたしだしい」

────え?
姉様が、宝石を埋めた?
なんで…?

「どうして?」

先に彼が言葉にしてくれた。

「なんでって…。魔力がない可哀想な娘に生まれっちゃったから、要らない娘じゃん。だから、実験台にしようかと思ってぇ〜。
あとは魔力をちょっとでも持てるようにって、ね!」

実験台…。それで私の心臓に…。
心がきゅっとなる。
姉様には愛されていただろうと思っていた私が馬鹿だった。
姉様を信じていた私が馬鹿だった。
じわじわと色々な感情がこみ上げてくる。一つわかるのは全て負の感情であること。
目の周りが熱くなって、生暖かいなにかが零れそうになる。
それを腕で拭いながら私は駆け出した。姉様の家から飛び出した。
森を走っていく。
姉様が呼び止める声が聞こえるけれど、そんなもの気にしていられない。
暗くて静かな森に、私の足音がざっざっざっと響く。
もう、どっちに進んでいるのかさえわかんないや…。
それでも夢中で走る。
というより足が止まんない。
どこに向かっているのよ、私の足は。
分からないけど、どんどん進む。
気がつくと、自分の足音に何かの音が重なって聞こえ出した。
そしたらいきなり足にブレーキがかかって。
振り向くと、彼がいた。
焦ってたのかな、ズレていた仮面をすっと定位置に戻す。

「外に出なさそうなのに、足速いんだね。」

彼は息切れしながらそう言って笑った。怒らないの?
約束に背いて勝手に走り出した私を。
貴方から逃げたかもしれなかったんだよ?

「…ごめんね、あそこに泊まろうなんて言って。」

大丈夫です。
言おうとしたんだよ。
ほらね、やっぱり息が混ざるんだよ。
代わりに今度は頭を大きく振った。
でも、その後の会話をどう繋げたらいいかわからない。

「ホテル…探そうか。近くにあるかな…」

彼は頭をぽりぽりかきながらあたりをウロウロする。

「1晩じゃ、着きそうにないもんね」

そうですね。
なんで声でないんだろ。
まだ彼のことをどこかで怖がっているのかな…。
彼の方を見ると、頭に指を当ててるから、魔法でホテルを探してるのかな。
ジロジロ見ているのに気がついたのか、こっちを向いた。

「こうやってるとね、ホテルを探せるんだよ。うん、近くにありそう。こっち。」

そう言って彼は私の手を取ってよく分からないけど進み始めた。
きっと、森を抜けられる。

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こまいぬ
こまいぬ
僕はたまに歌を書いたりポエムを書き留めたりお話を書いたりします