殺"そう"とした?殺したんやなくて?
目の前の神山は気持ち悪いぐらいににやにやしていた。数秒、その顔を眺めてハッ、とする。
俺は、神山の横に倒れる男を指さしそう言った。
WESTか、BALLISTIK BOYZのどちらかの奴だろうけどその中から2人と言われても誰かなんて分からない。当てずっぽうで言っていくしかないか
すっごい驚く?
その言葉が思った以上に引っかかる。あいつらじゃないってこと?
考えろ、考えろ。
頭をフル回転にして、考える。信じたくはないけれど身内?FANTA内の誰かってこと?
そんな、わけ、あるわけない。今までずっと、ずっと……
"あぁ、いてて、"
聞き覚えのある声。壊れたドアを跨いで屋上へと入ってきたのは、堀夏くんだった。
絶望。
まさにそんな言葉がお似合いだと思う。
今までずっと一緒に仕事してきたのに、、生きてきたのに。
さらに堀夏くんに続いて後ろから入ってきたもう1つの人影。それを見て俺は絶望の一言なんかでは言い表せないほどの失望感で、目の前が真っ暗になる。闇の奥深くに突き落とされた気分だった。
俺があなたの復讐をするって言った時、真っ先に協力するよって、言ってくれたのに。
あなたとも仲良くしてくれたじゃないですか。
あなたの誕生日会だって皆でやろうって言ってくれたじゃないですか。
あなたといる時の楽しそうな表情も嘘だったって言うんですか。
グループの指揮、取ってくれてたじゃないですか。
なんで、なんでなんでなんで。
なんでよ、
嘘だ……。
言葉にならない訳の分からない声だけが漏れ出る。
"おぉ、いいねぇ。ひと仕事終わったし"
俺は、後ろポケットから銃を取り出す。
カチリとストッパーを外し、後ろ手に構える。
立ち尽くす俺を横目に屋上から去っていく。
あなたは、今何してるんだろう。
今でも大好きだった歌、歌ってるかな。
世界さんたちと会えたかな。
兄ちゃんが、こんなんで、ごめんな、
頼りなくて、ごめん、、
あなたの復讐するって決めたのに、
大樹くんたちだって分かったら手が震えて、引き金を引けなかった。
それから3年。
探し続けたが、見つからなかった。
覚悟を決めて探し回った3年間。あなたのことと、仲間のことだけを考えていればあっという間で。
結局諦めて、今までに貯めていたお金でなんとかやりくりをして生活していた。
そんな中、突然の訪問者。
「宅配便でーす」
帽子を深く被り、少し大きめの段ボールを持って決まった台詞を言う男性。
「はーい」
なにか頼んだか思い出せなかったが、とりあえず鍵を開ける。
「警察です。」
あぁ、遂に俺の人生もこれで終わりだと思った。バレてしまったんだ。しょうがない。いつかこうなるのは分かっていたのだから。
カチリと両手首に手錠がかけられた。
そして、目の前の警察官が頭から血を流して倒れた。
"颯太!"
遠くの方からそう聞こえた気がして、咄嗟に警察官のポケットに入っていた手錠の鍵と拳銃を取り周りを見渡す。
"こっち!"
隣のマンションの屋上でそう叫ぶ1人の男。
数分して、ダッシュでこちらに来てくれた隼さん。
声を詰まらせながらも、3年前、あの後の出来事を話す。それを、背中をさすりながら急かすことなく聞いてくれた隼さんは昔のままで。少し安心する。
それだけ言い残し、その場を離れてしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
大樹と、堀夏が。
自分があなたのことを殺したのではないと知って少し安心した。でも、颯太のことを苦しめたのは紛れもなく俺だ。颯太はまだ若いからやりたいことだって沢山あるだろうし、そんな1度きりしかない大切な人生を俺のせいで無駄にして欲しくなくてあんな事を言ったものの、2人がどこに行ったかも分かんないし、颯太の兄ちゃんだって、生きてるかすら、
第1、俺1人でなにができるというのだろうか。亜嵐くんのように作戦を考えることも出来なければ、玲於のようにハッキングもできない。龍友くんやメンさんのように力もなければ、涼太くんのように冷静な判断もできないし、裕太くんのような素早い動きもできない。
そんな俺に、何が、
"隼の強みって、周りの少しの空気の違いにも気がつくとこだと思うんだよね。相手の気配にすぐに気がつくじゃん。俺らめちゃくちゃ助かってるよ。隼がいなかったら俺らすぐに死ぬだろうなぁ、なんて笑。あ、あと強運持ちなとこね"
3年前、俺らの最後の戦いの日。全員で生きて帰ろうと話していた時、ふと亜嵐くんがそんなことを言い出した。
目の前を見慣れた身長の低い男が通り過ぎる。
自分はきっと、
その男を路地に連れ込み、羽交い締めにして顔を確認する。
"いたいいたい、なに、!離せっ!"
神山に背を向け颯太の元へ帰ろうとすると、ガクリと足から崩れ落ちた。
背中から生暖かい液体がだらだらと流れ落ちるのが分かる。
そういえば、言ってたな亜嵐くん。
"隼は強運が強みだけど、褒めたら調子乗るんだよなぁ笑。だから今までこんなこと言ってこなかったけど、まぁ、今回は特別、笑"
亜嵐くんの言ってること間違えてなかった。あぁ、油断したなぁ。
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ピンポーン
ちょうど、警察官の処理が終わった頃もう一度インターホンが押された。隼さんが戻ってきたのだろうか。
覗き穴で確認もせず、ドアを開けるとそこには会いたかったようで会いたくなかった人が。
慌ててお兄ちゃんを押しのけて隼さんの元に向かおうとすると腕を掴まれる。
ジリジリと爪が腕に食い込む。
キッと睨みつけるが、何をそんなに怒っているのか分からないとでも言うようなきょとんとした顔。
俺の腕を掴んだままずかずかと家に上がってくる。
3人を殺した神山も許せないけれど、大樹くんと堀夏くんのことを信じることが出来なかった自分が何よりも憎かった。
こんな俺が神山を殺す権利があるのだろうか。あなたを守ることも出来ない。仲間を信用することも出来ない。
こんな俺のこと、
突然目の前に銃を置かれる。
"こんな俺のこと、いっその事殺して欲しい"
そう思ったのを分かっていたように。
俺の前に銃を置くと神山は無防備にどっしりとソファに座る。
にやにやと次に俺がどんなアクションをとるかを探るように口角を上げる。
こんなに憎いやつを今すぐにでも殺せるのに、手が震えて何も出来ずに動けない自分はやっぱり臆病で情けない。
でも、きっちり決着をつけなければ。
銃で殺そうにもここはマンションで他の住人にバレてしまう。
どうすればいいか分からず、悶々と考えているとピンポーンとインターホンが鳴る。
1度無視をすると、その後も何度も何度もしつこく押してくる。神山に銃を向けるように構えたままドアクスコープを覗くと、そこは真っ暗で外から指か何かで隠されていると分かる。
開けるか悩みに悩んだ末、ただの宅急便の可能性もあると冷静さを失っていた俺は考えて少しだけドアを開けた。
すると、その隙間に手入れられ思いっきり開けられる。
正体は警察だった。警官が3人。銃を握る俺に拳銃を向け、
「銃を下ろせ」
と一言。
頑なに銃を下ろさず、挑発とばかりにカチッとロックを外すと3人の警官は引き金を引いた。
バンッという音ともにとてつもない痛みに襲われる。
お腹に1発。
運が良かったのか、なんなのか、即死に至る心臓や頭には銃弾が撃たれなかったせいで倒れてから数十秒意識が残っていた俺は4人の会話に耳を傾ける。
「大丈夫?」
「今、連絡したから」
その声は明らかに大樹くんと堀夏くんのものだとすぐに分かった。
あぁ、俺はまた騙されたんだと思った。後、1人は重岡かなんかが生き残ったのだと思っていた。
「もう、死んだから。安心してね、」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。