「大丈夫?」
そういってこちらに駆け寄ってくる細い人。
「服破れてんじゃーん」
唇さんがそう言うと服を脱ぎだした。
「これやるよ!」
そう言うと自分の服を差し出し
「え、でも…」
戸惑っていると
「そんな格好じゃ人前出られねぇーし俺も今から泳ごうと思ってたし!」
その言葉に甘えて私は服を受け取った。
当たり前だけどサイズの大きいそのTシャツはなぜだか分からないけど
安心する匂いがした。
「あ、カメラ…!」
私は目の前でプカプカしてるカメラを見つけた。
「あ、そーだ、カメラ」
唇さんも思い出したかのようにカメラに近寄る。
「あの、弁償します!」
そう、この一言を言わなければ未来は変わっていたかもしれない。
神様はやっぱり私を突き放したのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!