西暦20xx年、中高生の間で話題となっているのは夜の森に現れる『怪物』。
未だにそれの姿はわかっておらず、興味本位で夜の森に足を踏み入れた者は誰ひとりとして帰って来ていない。
ただ、必ず誰かが夜の森に踏み入れた翌朝には森の入口にその人の『体の一部分』が落っこちているという。
それ以来、警察の警備などもあるのだが-どうやら怪物は近頃森の入口付近まで現れるらしく、警備に当たった警察までもが怪物の犠牲になるという事態である。
そんな中、ひとり話題に興味を示さない「変わり者」が居た。
国立霊城風高等学校1年、梢野静香(たかのしずか)だ。
彼女は怪物の目的に薄々気が付いていた。そして、怪物が何者なのかも。しかし、それを言うわけにはいかなかった。言ったところで誰も信じないのが現状。それに、言ったとしても自分にはデメリットしかないのだった。
ある日、静香の友人のひとりが夜の森に肝試しに行こうと誘ってきた。幼馴染ということもあり、断りにくかったため静香はしょうがないなぁ、と言い誘いを受けた。
そう言って真剣の日本刀を見せるのは私を誘った幼馴染、藍紗(あいさ)だ。
-そうだった。
藍紗の家は母がある偉人の末裔らしく、日本刀などそういったものがあるのだった。
どうも嫌な予感がするのだが、ということを言わずに静香はただ頷いた。
しばらく歩いていると、森の静けさが目立つようになった。入口付近では聞こえていた車のエンジン音がもう聞こえない。ここはどこか別の世界なのではないか、と思わせるような静けさはどこか不気味に思えた。
平然とそう言う星輝を前に、静香と藍紗は驚きもしなかった。
その後静香達は3人で行動を共にしていたが-ついに森の恐ろしさを目の当たりにする。
藍紗が指を指した先を星輝が懐中電灯で照らすと古ぼけた木の看板があった。
そこには『ここから先は『魔の森』。人間は決して足を踏み入れてはならぬ。踏み入れた場合は『奴』に捕まり-二度と帰ることは出来ないだろう』と書かれていた。
『魔の森』-ここから先のこと。
『奴』-そんな昔から存在していたの?
というのも、この看板の後ろには丁寧に『明治十五年六月七日』と刻まれていたのだ。刻まれた跡はきちんと古いままで、それが偽物ではないということが明らかになった。
静香がこの土地について調べようとスマホの電源をつけた。
3人が呑気に会話していると、かなり後ろの方から自分たちが探していた男子達の悲鳴と、明らかに男子達の声とは違う『何か』の声が聞こえた。
静香は2人の手を引っ張り魔の森の方向へ走ろうとした。が、2人は足がすくんだのか動かなかった。
そう言うと静香は無理矢理2人を引っ張って逃げ出した。
魔の森に3人は飛び込んだ-…
魔の森。
昔から近づくなとおばあちゃんに言われた場所の、更にその奥地。
何があるのかわからない現代人未踏の地。
近代人-明治時代や昭和初期の人達が遺した文献でしか、情報は探れない。
魔の森は、先程まで居た森よりも鬱蒼としていた。
人の手が入らないと思わせられるのは、ひたすら続く獣道と、たまに見かける朽ち果てた看板や、朽ち果てた農具。恐らく、昔の人々はここを開拓しようとしていたのだろう。けれど、明治時代にはもうアイツが居ることを確認されていた。ということはこの農具は恐らくあの看板が建てられる前、つまり江戸時代のものになるのだろう。もう少し保存状態がよければ歴史資料館に提供できたのに、なんて思いながら静香は歩みを進める。
すると、奥の方になにか大きなものが見えた。
それは動かない。
つまり、奴ではない。
家屋に入ると、床はかなり傷んでいたが高校生3人が同じ位置に立っていても崩壊しないあたりまだなんとか生きられているのだろう。
雨漏りが激しい家屋内には、錆びた鍬やかなり古い白黒写真が何枚か見られた。懐中電灯で照らすと灰と落ち葉だらけのかまど、すっかり朽ちてしまった薪の山があった。これだけ傷んでいるのに虫1匹いないことは少し妙なのだが、有難いとも思えた。
すると星輝が何かを見つけたらしい。
なにか古い文献や書物を読むのは静香の役目。というのも、静香は何故か古文を読むのに長けている。現代文を読むようにすらすらと読むその姿と名前をかけてあだ名が静御前になることもあった。
星輝は目を輝かせながら静香に言う。
静香はこくりと頷き、行こう、と足を動かした。
静香はひとり小さい頃の記憶を思い返す。
「いいかい静香。あの森には絶対に入っちゃいけないよ。あの森には『悪いカミサマ』がいるからね」
「うん!わたし、絶対入らないようにする!」
そう、約束した。
悪いカミサマとは、きっとあの『奴』のこと。
「ところで、そのカミサマはどうして悪いの?」
「あぁ、カミサマは人を見つけたらバラバラにしちゃうんだよ」
そう、バラバラに、木端微塵にしてしまう。
カミサマはどうしてそんなことをするのか。
「カミサマはねぇ…大昔の人に生贄にされた子供の思念の集合体なんだよぉ……だからぁ…………生きている人間が……羨ましくて仕方ないのさぁ」
そう、だからそれを奪って自分のモノにしようとする。
たけど、それは必ず失敗する。
じゃあ、どうしてそれを繰り返す?
なんで学習しない?
「…静香…………最後にこれは覚えておいてねぇ……おばあちゃんの最後の言葉だからねぇ………………死者の時間は-死者が死んだその時のままなんだよぉ………」
星輝は慌てる。
-無理もないだろう。
いきなり時間軸だの難しい話をしているのだ。
だが、と静香は口を開く。
静香の言われた通りに、星輝はスマホで時間を確認してから、空を見る。そして-はっとする。
その反応に静香は頷き語る。
藍紗は少し涙目で最悪の事態のひとつを想像する。
静香は少し伏し目で、頷いた。
そう言うと静香は死んだ森の更にその奥へ足を踏み入れる。
静香自身、ここから先は祖母の言葉と自身の脳、直感を頼るだけ。正直、あれだけ言っておいて3人生きて帰るということが出来るのか不安だった。
だが、やらねばならない。
ほんのひと握り-若しかしたらそれ以下かも知れない可能性を、引き当てなければならない。
自分だけ帰るなんて真似は、出来ない。
そんなことをすれば、親友2人を見殺しにして帰ってきたことに罪悪感を覚えてしまうから。
星輝は藍紗の手を引いて、静香の後を追った。
その時気のせいだろうか-
後ろの方からガサガサッと木々の葉が不自然に揺らいだのは…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。