騒がしい朝の廊下。立ち尽くしておしゃべりをする子たちやたくさんの人が行きかう中。
親友の神奈(カンナ)ちゃんが、あたしの手を急に引っ張って廊下の先を指差す。
神奈ちゃんが引っ張って驚いたあたしは、その反動で持っていたココアから手を放してしまった。
ビチャ…!!
茶色のココアの滴が辺りに少し、飛び散った。
つぶった目を開けると、あたしの落とした小さな紙パックから、次から次へとチョロチョロとココアが流れ出している。
(あー…やっちゃった。)
すると、あたしがココアを溢したことにやっと気付いた神奈ちゃんが大声をあげる。
そう言って、神奈は肩に掛けていたスクールバッグからポケットティッシュを取り出して、あたしにくれた。
ため息をつきながらも、一緒に拭いてくれる。
神奈ちゃんは、高校に入ってからできた友達で、ちょっと強気な女のコだけど、明るいから男子ともよく話している。
思ったこともはっきり言うタイプだけど、とっても優しいんだ。
ココアの溢れた廊下を見ながら、神奈ちゃんが言った。
あたしは急いでまた拭き始める。
なかなか落ちないなぁ。白い廊下には、うっすらとココアの跡が残っている。
ため息をつきながらも 薄くココアのあとの残る廊下を拭く。
その時だった。
振り向くとそこには…
神奈ちゃんが思わず名前を口にした。
雪矢くんは、笑って神奈ちゃんにティッシュをもらうと、一緒に拭いてくれた。
2人が手伝ってくれて、床はすっきり綺麗になった。
あたしは二人にお礼を言う。
そう言って、ペシッと神奈ちゃんに額に雪矢くんが突っ込む。
神奈ちゃんが雪矢くんの手を振り払う。
軽く手を振って向こうへ歩いていった。
(優しいなぁ…雪矢くん)
あたしは、人見知りだから女の子とも仲良くなるのは大変なんだけど、雪矢くんだけは違った。
緊張してうまくしゃべれなくても、何度も話しかけてくれる。
実はあたし、彼に恋してます。
優しい言葉、笑い方、仕草、全てにドキドキする。
向こうへ歩いていく雪矢くんを見つめながら、あたしはそう考えていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。