肩で挟む受話器の向こうからけらけらと可笑しそうに神奈ちゃんの笑う声が聞こえてくる。
あたしは鏡を見ながらありったけの洋服をかざして、ケータイの向こうの神奈ちゃんに泣きつく。
神奈ちゃんの笑い声がまた聞こえる。
あたしの声に一層声を大きくして笑って言う。
(うぅ……)
核心をついてくる神奈ちゃんに反論する文句も見つからず、床に開きっぱなしの雑誌を手にする。
『女の子っぽく魅せるなら、ワンピースで試合観戦には動きやすいスタイルがいい』…かぁ。
ファッション誌の《一番可愛いコーデ!!》と書かれている特集ページを読みながら色んな洋服を手に取ってまた鏡の前にたつと、次々にかざして見せた。
何だかんだで現在時刻は、もう12時半を過ぎていた。
バスに揺られながら、そんなことを考える。何かと悩んだ末にいつもと変わらない私服になってしまった。
2つ程乗り継いで、広い野球場に到着する。
(うわー…。なんかすごいなぁ……)
野球場の広さに圧倒されて、眺めていると係員の男性に声を掛けられた。
黒い髪は艶やかに反射し、綺麗な顔立ちをしたいわゆる『イケメン』だった。少し見とれて、あたしはハッと思い返す。
あたしが恐る恐る聞くと、
そう言ってニッコリ笑った。その笑顔は、とっても眩しかったけれど、雪矢くんみたいにドキドキはしなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。