辺りは、沈みかけの夕日で赤くでも淡い暖かなオレンジ色に染まっている。
あたしたちは、その中を二人で歩く。
昨日の今日で、緊張して上手く話せない。
沈黙が続かないように、必死で雪矢くんに問いかけた。
雪矢くんのいきなりの発言にあたしはただ驚いた。
(へぇ……そっかぁ。兄弟……。)
雪矢くんがあたしに聞く。
それだけいって、また沈黙が広がる。
うー……。どうしよ~。
沈黙はさらに続く。
その空気が、とても苦しい…。
苦しいけど……辛くない。
なんでだろ……?
あたしはそっと、横を向く。
すると、その視線に気づいたのかふと雪矢くんがこっちを向く。
でも、同時に視線を反らすあたしたち。
時折二人の手がぶつかって、
そんな台詞が繰り返す。
もうすぐ、あたしの家につく。
いつもの家路がとても短く感じた。
沈黙は……あんなに長かったのにな。
始めは、途中までの予定だったんだけど、雪矢くんが送っていくよと言ってくれて、今こうして送ってくれている。
そーゆートコにも雪矢くんの優しさが出る。
雪矢くんは、あたしが好きなこと知っているのかなぁ?
雪矢くんの声にハッとして慌ててお礼を言う。もうここでお別れだ。
沈黙から逃れほっとしたような、もっと一緒にいたかったような複雑な気持ちで門を開く。
キイ…と、さび付いた音を立てる門扉をくぐり、あたしが玄関の扉の前まで来たときだった。
ふと背に聞こえた大好きな声が呼ぶ名前に、思わず動揺を隠せずに振り向いた。
俯きながら、くしゃくしゃと髪をいじる雪矢くん。表情は見えないが、サラサラの髪の隙間から火照った耳が見えた。
普段の無邪気な笑顔とは違う、初めて見る雪矢くんの姿に、少しずつ、鼓動が早くなる。
突然の問いかけに声がでない。
(雪矢くんです…!って言えたら…)
言えたら、きっと何かが変わる。
ずっと好きだったのは、あなたです。と
ずっと溢れるほど抱えていた想いも、喉の奥でつっかえて出てこない。
クルリと振り返ると、あたしの言葉も待たずに走って行ってしまった。
毎朝走ってるだけあってか、その後ろ姿は絵になる程にかっこよかった。
……辺りはすっかり闇に包まれた夜。
雪矢くんが走り去った跡に残されたのは、あたしの止まらない鼓動とあの言葉だけだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。