第7話

*帰り道
44
2018/01/14 14:32
辺りは、沈みかけの夕日で赤くでも淡い暖かなオレンジ色に染まっている。
あたしたちは、その中を二人で歩く。
昨日の今日で、緊張して上手く話せない。
月野 結愛
雪矢くん、今日野球……行かないの?
沈黙が続かないように、必死で雪矢くんに問いかけた。
雪矢
うん。今日は、チビたちの面倒見なきゃなんないからさ
月野 結愛
チビ?え?…もしかして雪矢くんて兄弟いるの?
雪矢
うん。妹二人、弟二人の5人兄弟
月野 結愛
え、そんなに?初めて知った…
雪矢くんのいきなりの発言にあたしはただ驚いた。
(へぇ……そっかぁ。兄弟……。)
雪矢
……リンゴちゃんは?
雪矢くんがあたしに聞く。
月野 結愛
あたし?…は、一人だよ…
雪矢
え?兄弟いないの?
月野 結愛
うん。一人っ子
雪矢
そっかぁ…
それだけいって、また沈黙が広がる。
うー……。どうしよ~。
沈黙はさらに続く。
その空気が、とても苦しい…。
苦しいけど……辛くない。
なんでだろ……?
あたしはそっと、横を向く。
すると、その視線に気づいたのかふと雪矢くんがこっちを向く。


でも、同時に視線を反らすあたしたち。



時折二人の手がぶつかって、
















雪矢
……ごめん











月野 結愛
……ううん
そんな台詞が繰り返す。
もうすぐ、あたしの家につく。
いつもの家路がとても短く感じた。
沈黙は……あんなに長かったのにな。
始めは、途中までの予定だったんだけど、雪矢くんが送っていくよと言ってくれて、今こうして送ってくれている。
そーゆートコにも雪矢くんの優しさが出る。
雪矢くんは、あたしが好きなこと知っているのかなぁ?
雪矢
着いたね
月野 結愛
あ うん。ありがとうっ
雪矢くんの声にハッとして慌ててお礼を言う。もうここでお別れだ。
沈黙から逃れほっとしたような、もっと一緒にいたかったような複雑な気持ちで門を開く。
キイ…と、さび付いた音を立てる門扉をくぐり、あたしが玄関の扉の前まで来たときだった。
雪矢
…結愛
月野 結愛
…え?
ふと背に聞こえた大好きな声が呼ぶ名前に、思わず動揺を隠せずに振り向いた。



俯きながら、くしゃくしゃと髪をいじる雪矢くん。表情は見えないが、サラサラの髪の隙間から火照った耳が見えた。
普段の無邪気な笑顔とは違う、初めて見る雪矢くんの姿に、少しずつ、鼓動が早くなる。
雪矢
結愛は…さ、…好きな人………いるの?











突然の問いかけに声がでない。
月野 結愛
え……っと、あの…そ、それは…
(雪矢くんです…!って言えたら…)

言えたら、きっと何かが変わる。

ずっと好きだったのは、あなたです。と

ずっと溢れるほど抱えていた想いも、喉の奥でつっかえて出てこない。


雪矢
あれ……。ごめん何いってんだろ俺、……帰るな!
月野 結愛
あ……
クルリと振り返ると、あたしの言葉も待たずに走って行ってしまった。
毎朝走ってるだけあってか、その後ろ姿は絵になる程にかっこよかった。

……辺りはすっかり闇に包まれた夜。
雪矢くんが走り去った跡に残されたのは、あたしの止まらない鼓動とあの言葉だけだった。

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