第12話

Episode_12
489
2018/01/07 06:19
お姉ちゃんが帰ってきて、私は二階の自分の部屋に上がった。
“隼人くん”と顔を合わせるのが気まずかった。
というか、恥ずかしかった。
ベッドの上でうつ伏せになって、抱き枕をこれでもかというくらいギュッと抱き締めたり、手足をジタバタさせたりしては、さっきのことを思い出していた。
『ねえ、“隼人”って呼んでみて?』
考えるだけで、ドキドキする。
意地悪な笑み。
戸惑って、どうすればいいかわからなかったけど、でも、嫌じゃなかった。
それどころか、嬉しい気持ちさえあった。
でも、なんで隼人くんは私にあんなこと言ったりしたんだろう。
もしかして、隼人くんにとってはあんなの、なんでもないことだったのかな。
さっきからずっと隼人くんのことを考えている。
考えないようにするほど、逆効果で。
深呼吸をして、冷静になる。
私が隼人くんにドキドキするこの気持ちは何?
隼人くんは、お姉ちゃんの彼氏なのに。
私がドキドキしていいの?
もしかしたら、私は…。
ううん、違う。
とっさに首を振るけど、でも。
気付きたくないけど、もしかしたら。
…これは、一目惚れ?
ふと、頭の中によぎる言葉。
それは…
──浮気。
でも、私が隼人くんに抱く気持ちは、恋とかそういう“好き”じゃなくて。
例えば、芸能人に対する憧れとかカッコいいとか、そういう“好き”だとしたら?
それだったら、悪くはないのかもしれない。
それに、もし恋愛感情だとしても、自分の心の中だけに秘めておくだけなら、大丈夫だよね。
“恋人”っていう関係ではないけど、ドキドキするだけなら別にいいよね?
一階から、お姉ちゃんと隼人くんの笑い声が聞こえてくる。
また、隼人くんに会える機会が会ったら。
そしたら、またドキドキさせてもらえるかな。
次は、戸惑わずに、あとから後悔しないように素直にドキドキする気持ちを受け止めよう。
私の中で、“悪い感情”が少しずつ芽生えてきているような予感がした。

プリ小説オーディオドラマ