月曜日になった。
学校に行くと、教室に入るやいなや、菜摘が“おはよう”の一言も忘れて切り出した。
その菜摘の勢いと言ったら、私が思わず後ずさりしてしまうくらいだった。
なんて言えば正解なんだろう。
カッコよかった、って言うのもなんか違和感を感じるっていうか。
一目惚れした、って正直に伝えるのは絶対無理。
菜摘は、キラキラと目を輝かせた。
そういえば、どこの学校か聞いてないな…。
その瞬間、菜摘は大きく目を見開いた。
知らないって…、何が?
そうだったんだ…。
知らなかった。
隼人くんって、そんなに有名人だったんだ。
お姉ちゃんがそんな有名でモテモテな人と付き合えたなんて、信じられない。
菜摘の目線を辿った先には…
隼人くんがいた。
とたんに、胸がドキドキしてくる。
私が隼人くんの方を見ていると、隼人くんがチラッとこっちを見たときに目が合って、私は慌てて目をそらした。
だけど、間に合わなかったみたいだ。
逃げようかとも思ったけど、体が動かない。
ドキドキしすぎて…。
隼人くんは昨日と同じ、意地悪な笑顔だ。
みんなが見ている気がして、気が気じゃない。
そりゃ、モテモテな有名人がいたら、注目の的になって当たり前だけど。
菜摘はというと…。
口をぽかんと開けてかたまっている。
そう言われても、隼人くんは懲りない。
隼人くんは、悪魔要素が含まれた満面の笑みを見せて、歩いて行ってしまった。
さすがに、学校で話しかけられたら色々とまずい。
さっきから、周りからの冷たい視線を感じるのは…気のせいかな?
廊下から様子を伺っていた2、3年生の女子の先輩からも、冷たい視線を感じる。
どうしよう…。
私は、教室を飛び出した。
無我夢中で走って、トイレに駆け込んだ。
隼人くんって、そんなに有名な人だったんだ。
知っていたら、こんなことにはならなかったのに…。
どうしよう…
これからも、周りの女子からああいう冷たい視線を向けられて過ごさないといけないの?
絶対耐えられない。
結構まずい。
みんな、私のお姉ちゃんと隼人くんが付き合っていることを知らないのかな?
それとも、知っていてあの視線…?
話しかけてもらえたのは嬉しかった。
だけど、かなりまずい状況だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。