第3話

私のSecret
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2017/12/24 15:30
新学期になってから早2日。

つまらない数学の授業に軽くペン回しをする。

2年生の頃の復習からだから暇つぶしにもならない。

2日前と変わらずクラスは賑やか。授業中も休み時間も変わらずガヤガヤ。

耐えきれず、用もないのに廊下に出ることもしばしば。

まだ始まったばかりの生活にもう、疲れてきていた。
キーンコーンカーンコーン

その音と共にザワザワが余計増す。

昼休みだから尚更かな?

こんな狭い教室にいられるわけがないし、耳障りのこんな場所でお昼なんて食べたくない。

そそくさと、小さいトートバックを手に騒がしい箱から抜け出した。

向かうは体育館裏。

体育館はもちろん外にあるんだけど、建物の2階にあるかんじでコンクリートだから、草とか虫の心配は一切ない。

なんてのどかなんだろう。

学校での高さは2階だけど、遠くのマンションの10階と同じ高さ。

こっちから見る景色は緑だけど、反対側から見る景色は青。 

木も海も見えるこの学校は唯一の良いところかもしれない。

今朝詰めたばかりのお弁当を広げ、ミートボールを口に運ぶ。

おいしい…。それを共有してくれる人がほしいってたまに思ってしまうこともあるけれど、目の前の景色と青空が一緒に感じてくれてると思うと心が軽くなる。

ながいながーい昼休み。たっぷり40分ある。

その余韻に浸って目をつぶってしまったのが、きっと大失敗だったんだ。
「あなた」
 
遠くで呼ばれる私の名。

うっすらと目をあければ誰かが私の前に立っている。

「あなた起きろって」

ぼうっとした頭をフル回転させ、意識をゆっくりと取り戻す。

あ、やばい。寝てしまった…

「やっと起きたか?」

私の目の高さに合わせて立っている人物をようやく認識した。

この人、担任だ。なんだっけ?興味がないから名前は覚えていないけれど、2日前に認識した顔。

膝の上に広げていたお弁当はほとんど手付かずのまま。

ブレザーのポケットにいれていたスマホで時間を確認すれば既に6時間目の授業が始まったいた。

「こんな所で寝てたら風邪引くだろう?」

言われてみれば喉の奥のほうがイガイガする。

やばいかも…?

「すいません…」

そう話せば声はかれている。とき既に遅し。

私の風邪はいつも長引いてしまうから気をつけていたはずなのに。

急いでお弁当を包み、立ち上がろうとすれば

「ほら」

と手を伸ばすこの男。いやいや男性教師が女子生徒に触れちゃ駄目って聞いたことがあるんだけど。

戸惑っていると待っていられなかったのか勝手に腕をとりはじめる。

え、なにごと?私はまだ夢の中なのでしょうか?

しばらくそのまま歩いていたら風が冷たく吹いてきてゲホっと咳が出てしまう。

一回出始めたらとまらない。

ゲホゲホゲホ…喉から微かに聞こえるヒューっという音。

異変に気がついた担任が足を止め振り向く。

「あなた?どうした?」

いや、答えられないし。と思いながらも内心焦る心。

スカートのポケットから吸入器を取り出し、タイミングを合わせプッシュする。

なのに上手く薬を吸えなくてこのまま死んじゃうかもって思ってたとき

「深呼吸。大丈夫。ゆっくりと」

普段なら聞こえるはずのない他の声が今日ははっきりと聞こえる。

深呼吸…深呼吸。

タイミングがやっと合う。徐々に治まる咳と息苦しさ。

顔を上げればにこりと微笑む彼。

「ありがとうございます」

聞こえるか聞こえないかの声で発せば、こくりと頷いてくれた。

でも、

「喘息か?」

私の弱みを握られてしまったことは、今日の大失敗だろう。
トントントン

「失礼しまーす」

と尚、私の腕を取りながら保健室のドアを開ければ保健室の先生はあらと声を漏らす。

私の2つめのお家みたいな此処。

4つあるベットの一番右が私の居場所。

有無言わず所定の位置へと促さられ、ベットにちょこんと座った。

新学期が始まったばかりだからか、まだ他の生徒はいない。

「喘息の発作が出て」

「あら、お疲れ様なんですね」

という会話がちょっと離れたところで行われているけれど、春休みで体力が落ちてしまったのか睡魔の方が強く、他人事のように聞こえる。

「あなたさん?寝ててもいいのよ?」

と言う保健室の先生の声にうなずき、そのまま私の意識は遠のいた。

「あなたさーん、もう17時なんだけど、帰れそう?」

夢を見なかったということはきっと爆睡だったんだ私。

「はい」

と寝起きの声で返事をすれば、昼間の吸入のせいか声がガラガラでまるで蛙みたい。

シャーっとカーテンが開いて、保健の先生が水を渡してくれる。

さすがだ。すごい。

ゴクリと水が喉を通っていくのがわかる。

「加藤先生、心配してさっきもいらっしゃったのよ?」

コップの半分まで水を飲み終え、頭をフル回転。

でもやっぱりわからない…

「加藤先生??」

私の記憶に無い名前だ。

「担任の加藤先生。あなたさん、覚えてないの…?」

不安そうに瞳を覗いてくる先生の目を凝視できない。

「寝起きだから頭が動かなかっただけ…です。」

「そう?なら良いんだけど…」

「すいません。今日もありがとうございました。あと、今年もよろしくお願いします」

と急いでベットを直し、保健室を後にした。

だって…すぐに物事を忘れちゃうこととか、人の名前を覚えられないなんてバレちゃったら恥ずかしいもん。

だから、これは私だけのSecretなのだ。

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