信号無視の車にあなたは轢かれたんだそう。
友達は無事で、救急車を呼んで、
病院へ連れていってくれたみたいだったけど
頭を強く打って、意識が戻らなかった。
病院側から電話が入ったのが
事故から数時間経ったころ。
その頃には処置は終わっていて
現在の様子やこれからの事などの話を聞いた。
しばらくは受け入れられなくて
病室に入る事すらもままならない状態だった。
昏睡状態の妹を見るのがただただ辛い。
送っていけばよかった。
そんな後悔をずっと続けている。
ある日、いつものように病院へ来た時だった。
「このまま昏睡状態で生きていても、あなたちゃんが可哀想なだけです。自然と楽にさせてあげた方が良いのではないですか」
おばさんが言ったその言葉。
もちろんその通りなんだよ。そんな事分かってる。
でも、俺は、俺はっ…
「俺は、あなたが大事だからっ、失いたくないからっ、だからっ…」
少しの可能性があるなら信じたい。
こんな自分勝手な兄を許してくれ。
目を覚ましてくれ。
あの時のような太陽みたいな笑顔が見たいよ。
俺の中の希望は全てあなたにあるんだ。
気づけばもう5時間ここにいる。
今なら覚ましてくれるはず。
何故かそんな確信ができるんだ。
でも、それ以上にその確信が違うとなると
もっと悔しいし、苦しい。
だからかな。ここにいるのは。
「…目を覚ましてくれ」
心からの叫びは
あなた、届いてる?
手を強く握った。
ぎゅっ
握った手に、握り返す感触がある。
『…ホソクオッパ?』
懐かしいその声が耳に届く。
end__
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。