『あなた、おはよう』
『今日は凄くいい天気だよ』
『新しく発売されたあのフルーリー美味しそうだね』
僕が話しかけても返事は返ってこない。
それもそのはず。
あなたは植物状態だから。
あの時、僕がついていっていれば
今、この瞬間が変わっていたのか。
毎日、病室に入る度、
そう後悔を募らせていく。
あなたは高校生。
その日は体育祭の打ち上げだった。
親がいない僕たちは二人暮らし。
僕は大学生で車の免許も持っていたから
送ってあげようか?
と提案した。
でも、あなたは
友達と一緒に行くからと言った。
あんまり妹にベタベタなのはバレたくなかったし、
あなたに鬱陶しがられるのも嫌なので
あなたを送っていかないことにした。
「行ってきます」
『行ってらっしゃい。気をつけてね』
これが僕とあなたが交わした
最後の言葉。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!