と、スティックとかいう
長い棒みたいなのを渡されたんだけど……
とにかく心拍数やばいし……!
手汗もすごい
スティックが滑っていきそうだ
こう……かな?
えっと?
ま、きつける?
????と
はてなマークだらけの頭で
自分の手を見ながら格闘していると、
そう言って、夜瑠先輩が
自分のスティックを置いて
私の手を、正しい形に直してくる
ということは
夜瑠先輩は私の手に触っているわけで……
──────ガタガタッ
ゴンッ────────
あんまり驚いたもので
後ろに足を引いた時に、足が絡まって
思いっきり後ろにこけ、
近くにあった掃除用具入れのロッカーに頭をぶつけてしまった
そう言って、夜瑠先輩が立たせようと手を伸ばしてくれるけれど
手を取れない
こわい
無意識に、私の顔は、怯えたような表情になっていたみたいで
夜瑠先輩の顔が傷ついたように
少し歪んだ
真穂が、近くに来てくれて
どうにか真穂の手を借りて起き上がる
夜瑠先輩を
傷つけてしまった
先輩は、何も、悪くないのに──────
私が謝ろうとした直後、
真穂が私と夜瑠先輩の間に入ってくれた
真穂が説明をしてくれている間、
私は真穂の後ろで身を縮こませることしかできない
夜瑠先輩が謝ってくれるが
私は真穂の後ろで首をフルフル振るのが精一杯だ
大丈夫です、の、意味を込めて
そうだ
保育園で男子にいじめられてから
私は男子には近づかない、
話さないって決めてる
もちろん、触らせたことだって1度もない
……男子に近づかないようにしてるから
必然的に、そうなるんだけど
なのに、どうして
夜瑠先輩とは話せたんだろう
ほんとだ
なんで気づかなかったんだろう
話せてる……どころか
夜瑠先輩、2回も私の頭、触ってる…………!
夜瑠先輩が、不安そうな目で私に訴えてくる
分からない、分からないけど……
夜瑠先輩なら、もしかしたら
大丈夫…………なのかもしれない
そういった途端、
パァっと夜瑠先輩の顔が明るくなった
そう言って私は
もう一度スティックを握り直した
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。