バッと光の速さでその人から離れる
うそうそうそ!
私知らない人と事故ちゅーを…
むくりと起き上がった男の人は
唇に指を持っていきさっき自分の身に何が起こったのか確認しているようだった
「いや、あのこれは」
「俺、ブスを抱く趣味はねぇから」
は…
はぁぁぁ!?
何こいつ何こいつ何こいつ!
初対面の私に、しかも女の子に向かってブスとは何よ!
いやブスだけどさ!
何も初対面で言わなくてもよくない!?
「 ──── だったのに」
「は?モゴモゴしゃべってんじゃねーよ」
「ファーストキス…だったのに」
ファーストキスがこんな形なんてあんまりだよ…
「へぇ。まぁよかったじゃん」
よかったって何が!
「俺とキス出来るなんて」
「私は別にアンタとキスしたかったわけじゃないし!」
「寝込み襲おうとしてたじゃん」
「だからそれはアンタの顔が…!」
アンタの顔がキレイだったから
なんて言ったら絶対調子乗る
「なに?」
「…何もない」
「あっそ」
ていうか私は伊藤先輩を捜しにここに来たのに
なんでこんな最低なヤツに出会ってしかも不慮の事故でファーストキス奪われてるんだろう
ガチャッ
屋上の扉が開いた
「ラッキー誰もいないじゃん」
と、そこで聞こえてきた声
それは
「伊藤先輩?」
伊藤先輩と
その伊藤先輩の腕に抱きついていた女の先輩のものだった
あのふたりは、どういう関係?
あんなにくっついて、楽しそうに笑ってて
「…っ…!」
終いにはふたりのキス現場を見てしまう始末
伊藤先輩が女の先輩と唇を合わせていた
それはまぁ濃厚なキスなわけで
「…」
伊藤先輩、彼女いたんだ…
・
・
「大胆だな、朝からあんなことするなんて」
隣にいたさっきの男の人が伊藤先輩たちにバレないようにコソッと言った
「……」
「なに?お前アイツのこと好きだったとか?」
「…」
うん、好きだった
夏休み前は彼女なんていなかったのに
…そっか。
…告白すら、できなかった…
「ッ…」
頬を伝うのは涙
フラれたらこんなにツラいんだ
「女ってそうやってすぐ泣くよな」
「うるさい…っ」
アンタに私の気持ちなんて分かるわけない
「…」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!