【楓Side】
しばらく黙って話を聞いてたんだけど、途中からあたしも辛くなってきて、気づいたら涙を流してた。
サッカーができなくなった大輝を、捨てるなんて考えをされてたあたしが憎い。
…考えるより先に、手が出た。
バチンッ
激しめな音が非常階段辺りに響く。
無意識に、大輝の頬に強烈なビンタを食らわせていた。
さすがに予想してなかった対応なのか、目を見開いて頬をさすっている。
怒り口調でこう言うあたし…
褒めてんのか貶してんのかよく分からないね。
やばい。
熱くなりすぎて、余計なこと言った。
あぁああああ!!!
どうしよ。
でも、誰もタイムリープなんて信じないし、いいや…てきとーにごまかそ。
だめだ、全然納得してない。
おかしな行動…
あぁ、あのおいしいやつね。
あたしも家帰ったら速攻食べるけどさ、ポテチが一番好きかな...
...すみませんでした。
手強いなぁ。
どうしよう...話した方がいいのかな?
でも、「自分がもうすぐ死ぬ」なんてあたしが言われたらドッキリかと思うし、信じたとしても怖すぎる。
...黙っておこう。
助け終わって、大輝の安全が分かったら...冗談混じりで話してみようか。
...本当は、こんな嘘つきたくないんだけどね。
しょうがない。
全国のポチさん、ごめん。
本当にごめん。
だけど、大輝に死んじゃったなんて言っちゃったから...この手の話は避けられないと思う。
もう一度謝らせてください。
全国のポチさん。
勝手に死なせてごめんなさい。
元気にたくましく生きてね。
言い訳としては完璧じゃないかな。
ちょっと泣きそうな演技を入れたりもして...ね?
大輝を見るが、何の表情もない。
...無表情ってやつですね。
これは、分かりにくい。
何を考えてるんだこの幼馴染は。
なんなのこいつ。
嘘だとしても飼い犬が死んじゃったんだぞ。
もっとかける言葉があるやろが。
はぁ...
でも良かった、信じてくれてるみた...
思わず叫んでしまう。
そんなあたしを見て、耳を塞ぎながら次々とあたしを論破していった。
...何も言えない。
あたしは正真正銘のバカだと今回のことでさらに自覚した。
焦っていたあたしは...大輝の失言を見落としていたんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。