懐かしい回想に浸っていたあたしはミクの声で現実世界へ戻された。
ミクがニコニコしながらあたしの手を引く。
言われてみれば、ただ授業に集中してるだけなのか、ミクのおかげなのか分からないが誰もあたしが教室から出て行っている事にさえ気が付かない。
ミクはあたしのささやかな抵抗をお構い無しにグイグイと引っ張って屋上に出た。
ここに来るのも何度目の事だろうか。
何度も全てにピリオドを打つためにこの場所に来た。何度も何度も……。
ミクに手を握られ、屋上の端に登る。
見下ろすと、カラスの羽のようなアスファルトが今日も見えた。
ミクが飛び降り、あたしも手を引かれ一緒に落ちる。
初めて、ずっと見続けていたアスファルトに近づく光景を見た。
死んだらお母さんもお父さんもおじいちゃんも優しくしてくれるかな。
人間は死んでも49日はこの世界にいるという。あたしは49日もこの世界にいることなんて望まない。どうせそんなに長くいても惨めになるだけだから。1日でいい……あたしが死んだって知って、お母さん……お父さん……おじいちゃんがどんな言葉を発するかだけみたかった……でも、きっと普通の家族なんかじゃないから死んだとしても優しい言葉なんてかけてもらえないんだろう。
あたしの生前のことを知ろうともせずに、
『自殺なんて恥』とか、『逃げ』とか言うんだろう。
自殺は逃げなんかじゃないとあたしは思う……死にたい人なんてこの世にはいない。
死にたいから自殺するんじゃなくて、生きることを辞めたいから自殺する気がした。
最終的には同じかもしれない。だけど、この二つの言葉じゃ全く違うことだとあたしは思う。
だから、そんなにも悩んで決めた死の選択を、何も知ろうとせず、大人の事情で片付けていいのかな。今更こんなことを考えたって手遅れなのかもしれない。だけど、なんだろう。なんの未練もないはずなのになんだか切ない。
蓮音くんの顔がふと思い浮かぶ。
やっぱり大好き。1回でいいから会いたかった。好きだって伝えたかった。そんなこと考えながら身体中に走る痛みに備えてぎゅっと目をつぶる。でも、いつまでたっても痛みは来ない。
ミクの声が聞こえゆっくりと目を開けると、そこには七色の世界が広がっていた。
状況が受け入れきれずミクの話は半分以上耳に入らなかったが、質問に答えた。
ミクの言葉の意が理解出来ず首をかしげていると、ミクは考えを遮るようにパチンと指を鳴らした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。