第9話

それぞれの家族のカタチ
52
2018/01/02 16:53
ミク
ミク
私のこと無視して一人で妄想しないでよ!!
懐かしい回想に浸っていたあたしはミクの声で現実世界へ戻された。
真奈華
あ、まだいたのか。
ミク
ミク
あ、まだいたんだ……じゃないわよ!
まぁ、百聞は一見にしかずよ!てことで行くわよ!
ミクがニコニコしながらあたしの手を引く。
真奈華
ちょっ……!!一応いま、授業中だから!
ミク
ミク
大丈夫大丈夫!あたしを誰だと思ってんのよ!時空の精ミク様よ??
言われてみれば、ただ授業に集中してるだけなのか、ミクのおかげなのか分からないが誰もあたしが教室から出て行っている事にさえ気が付かない。
ミクはあたしのささやかな抵抗をお構い無しにグイグイと引っ張って屋上に出た。
真奈華
……屋上?こんな所で何をするの?
ここに来るのも何度目の事だろうか。
何度も全てにピリオドを打つためにこの場所に来た。何度も何度も……。
ミク
ミク
ほーら!時空の旅に行くわよ!!
ミクに手を握られ、屋上の端に登る。
見下ろすと、カラスの羽のようなアスファルトが今日も見えた。
ミク
ミク
いくよ!せーのっ!
ミクが飛び降り、あたしも手を引かれ一緒に落ちる。
初めて、ずっと見続けていたアスファルトに近づく光景を見た。
死んだらお母さんもお父さんもおじいちゃんも優しくしてくれるかな。
人間は死んでも49日はこの世界にいるという。あたしは49日もこの世界にいることなんて望まない。どうせそんなに長くいても惨めになるだけだから。1日でいい……あたしが死んだって知って、お母さん……お父さん……おじいちゃんがどんな言葉を発するかだけみたかった……でも、きっと普通の家族なんかじゃないから死んだとしても優しい言葉なんてかけてもらえないんだろう。
あたしの生前のことを知ろうともせずに、
『自殺なんて恥』とか、『逃げ』とか言うんだろう。
自殺は逃げなんかじゃないとあたしは思う……死にたい人なんてこの世にはいない。
死にたいから自殺するんじゃなくて、生きることを辞めたいから自殺する気がした。
最終的には同じかもしれない。だけど、この二つの言葉じゃ全く違うことだとあたしは思う。
だから、そんなにも悩んで決めた死の選択を、何も知ろうとせず、大人の事情で片付けていいのかな。今更こんなことを考えたって手遅れなのかもしれない。だけど、なんだろう。なんの未練もないはずなのになんだか切ない。
蓮音くんの顔がふと思い浮かぶ。
やっぱり大好き。1回でいいから会いたかった。好きだって伝えたかった。そんなこと考えながら身体中に走る痛みに備えてぎゅっと目をつぶる。でも、いつまでたっても痛みは来ない。
ミク
ミク
何度も自殺しようとしてたくせに、いざ飛び降りたら目をギュッとつぶってるなんて、未練たらたらの証拠だよ。
ミクの声が聞こえゆっくりと目を開けると、そこには七色の世界が広がっていた。
真奈華
……ここどこ?
ミク
ミク
ここは時間の狭間よ。時間の分岐点の方がわかりやすいかしら?
今からあなたと心の中で思ってる大好きな人の過去と未来を見に行きましょう。あ、だいぶ遅れたけど名前は?
真奈華
東浜……真奈華。
状況が受け入れきれずミクの話は半分以上耳に入らなかったが、質問に答えた。
ミク
ミク
東浜……ままの旧姓ね……。OKよ!グズグズしてないでいくわよ!
真奈華
ママ……?旧姓?
ミクの言葉の意が理解出来ず首をかしげていると、ミクは考えを遮るようにパチンと指を鳴らした。

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