「こちらこそ!
ってか、何それ?」
「え?」
優馬くんが指さしたのは私のスマホ。
何それ、って…。
「スマホだけど…?」
「…ふーん。」
声は興味なさげだけど、優馬くんはまじまじと私のスマホを見る。
…そんなに珍しいものじゃないんだけど…。
あ、もしかして、ケースかな?
私のスマホケースは私の手作り。
手芸が好きな私が、ラメグリッターとかリキッドを入れて作った傑作!
揺れるラメが可愛い。
「あ、雨、止んできたな。」
優馬くんがそう言いながら空を見上げる。
「ほんとだ…。」
じゃぁ、帰ろうかな。
でも、まだ話していたい。
そんな気分だった。
「…オレ、もう帰んなきゃ。」
優馬くんが、左手に付けた腕時計を確認して言いながら立ち上がった。
私もスマホの時計を見ると5時半を過ぎていた。
30分以上話してたんだ…。
でも、もう帰んなきゃ。
30分、短いな。
「そっか…。」
そうだよね、ただの雨宿りだもんね。
もう。
私は寂しいという気持ちを俯いて見せるという形で示した。
「…あなた。」
突然、名前を呼ばれる。
しかも呼び捨て。
私は驚いて、顔を上げた。
「明日も、ここで会おう。」
「えっ。」
驚いている私に、優馬くんは腕時計を外して私に差し出した。
「え?」
「オレ、明日もここに来る。
このハンカチ、洗って返すから。」
「えっ…。
そんな、洗わなくても、今返してくれて大丈夫だよ?」
…優馬くんって律儀な人。
「いや、申し訳ないから。
それに…」
そう言って一旦俯く優馬くん。
「?」
それに…?
ぐっと顔を上げ、私を見た。
ドキ。
「…あなたに会える口実にもなるし!」
優馬くんは少し顔を赤らめて、強い眼差しでそう言った。
ドキッ。
今までに無いくらい大きく、速くなる鼓動。
…この、気持ちは…。
「これは、約束の代償。
絶対来る、って約束。
借りてるハンカチと交換ってことで。
だから、あなた持ってて。」
そう言って優馬くんは私の手を取って、優馬くんの腕時計を握らせた。
「…分かった。
でも、こんな高価なもの…。」
壊しそうで怖いよ…。
「いーのいーの、今それくらいしか約束の代わりになるもの持ってねーし。」
でも…。
「わ、私っ…。」
声が震える。
顔が熱い。
「約束のモノがなくても、優馬くんに会いたいから…
明日は必ず、ここに来るよ?」
だから、腕時計なんて、持ってられないよ…。
そう言うと優馬はさらに顔を赤くした。
「あーも、いーんだよっ。
あなたに持っててもらいてーの。
分かった?」
優馬くんの見せた笑顔につられて私も笑顔になる。
「…うんっ。」
「じゃー明日、5時にここ、待ち合わせな!」
「うんっ!
絶対来るね!」
「オレも!
じゃーまたな!」
私は優馬くんの後ろ姿を見送った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!